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03


「──おいっ、答えろ!アデルから何か聞いていないか!?」


「え……?」


「いやよぉ、アデルッ!まさかそんな嘘だと言ってぇ!」



やっと手が胸元から離れるとネファーシャル子爵は頭を抱えて、夫人は涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっている。

珍しく取り乱している二人を見ながら、マグリットは服を直すことすら忘れて動けないでいた。

とりあえずいつものように何も言わずに立っていると数少ない使用人たちを集めてネファーシャル子爵は血走った目でアデルのことを聞いている。

影を薄くしながら話を聞いていると、どうやらアデルが屋敷からいなくなったという。



「どうすればいいんだっ!」


「もう約束まで一週間もないのよ!?やっぱりアデルは納得できなかったのね。どうしましょう……!」


「すっかりアデルも納得したものだと思っていたのに、このままだとネファーシャル子爵家はどうなってしまうんだっ!」



焦る二人はアデルではなくネファーシャル子爵家の心配をしていることを疑問に思っていた。

二人はアデルをどんなことよりも優先していたはずなのに何かがおかしい。

どうやらアデルは一ヶ月前に嫁ぐことが決まっていたらしく、マグリットは今そのことをはじめて聞いたのだった。

アデル自身も嫁ぐことに納得したと言っているが、この状況からして納得しているとは思えない。



「アデルは今どこにいるんだ!まさかあんな顔だけの男についていくなんて信じられない……っ」


「あの男爵家の次男のせいよ!あの貴族とも呼べない遊び人の腐った男をやっと遠ざけたと思ったらこんなことになるなんて」


「ああ、アデル……!」


「今から探しに行けばまだ間に合うかもしれないぞ!?」


「馬車の車輪の跡があったわ!もう無理よっ、追いつけないわ」



泣き崩れるネファーシャル子爵夫人にかける言葉はない。

会話の内容から推察するに、どうやらアデルは朝食を食べた後にすぐに裏口から逃げ出してオーウェン・ベーイズリーと駆け落ちをしたそうだ。

アデル付き侍女のレイにも「具合が悪いから昼食まで休む」と伝えており、レイはアデルの言葉を信じて他の業務にあたっていたそうだ。


(これだけ使用人が少なければ誰にも見られることなく、簡単に屋敷を抜け出せそうよね)


マグリットを含め、使用人が三人しかいないネファーシャル子爵家。

見てくれこそ立派ではあるが中身はスカスカだ。


アデルの駆け落ち相手であるオーウェンはベーイズリー男爵の次男。

ベーイズリー男爵領はネファーシャル子爵領の隣にあるのだが、男爵領は治安がよくない無法地帯として有名だ。

何をして稼いでいるのか考えたくはないが、金回りがよくネファーシャル子爵家よりも豪華な屋敷と大量の使用人を雇っている。

爵位も金で得たものだった。


マグリットは幼い頃にベーイズリー男爵邸を見た程度で、そこからは使用人として働いているので詳しい情報は知らないが、近年は悪い噂も絶えず社交界でも問題視されている。

王家もベーイズリー男爵家に手を焼いているそうでネファーシャル子爵も距離を置いていた。


そんなオーウェンとアデルは顔見知り程度だったはずだが、最近になりマグリットは何度も二人の逢瀬を目撃していた。

夜中にアデルが部屋の窓から身を乗り出し、それに愛を囁いている青年を見たこともある。

それがオーウェンだったのだろう。

しかしマグリットはそれをネファーシャル子爵たちに報告するつもりもなかった。

そんな義理も恩もない。


箱入り娘で甘やかされてずっとチヤホヤされてきたアデルにとって自分の知らない知識を持ち、自由でちょい悪なオーウェンに惹かれるのも無理はないと思っていた。


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