表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/141

20.イザックside1


期待を込めた眼差しを送るマグリットと呆然とするイザック。

話が噛み合わないことにシシーとマイケルは二人の顔を交互に見ていた。



「と、とりあえずは屋敷の中に入りましょう」



シシーの言葉にマグリットは「はい!」と元気よく返事をした後にスキップする勢いで屋敷の中に入っていく。

その背中を見ながらイザックは驚いていた。


(何故、怖がらない……?どうしてマグリットは怒らないんだ?)


今まで使用人のフリをしていたのはマグリットとの時間が楽しくて仕方なかったからだ。

彼女はこの屋敷に来たばかりの頃に『ガノングルフ辺境伯に頼みたいことがある』と言った。


マグリットから一ヶ月の間、一緒に過ごして思ったことは逆境に負けない強い女性だということだ。


(マグリットはまるで太陽のように輝いている)


自分よりも年下のマグリットは、なんでもできた。

掃除、洗濯、料理に整理整頓、畑仕事すら一人でこなしてしまう。

腐敗魔法の力が恐れられているからと何もしないでいるイザックとは真逆だ。

そんなイザックに丁寧に仕事を教えてくれる。


彼女と過ごす時間がいつの間にか心地いいと感じるようになった。

マグリットはイザックが常に張っていた壁をいとも簡単に吹き飛ばしていく。


彼女は魔法を使えないという理由からネファーシャル子爵家での居場所はなかったようだ。

彼女はネファーシャル子爵家の令嬢ではなく使用人として育ったらしい。


ベルファイン王国で魔法が使えない貴族たちの行く末は悲惨なものだとイザックも聞いたことがある。

兄である国王はそんな子供たちのために救済措置を用意した。

設立した魔法研究所では隠れた魔力を引き出す訓練ができる。


魔力がないのではなく、なんの魔法属性なのか本人がわからない場合が多い。

しかしまだまだこの制度は浸透しておらず自分の家から魔力なしを出したことをバレたくないからと隠す貴族たちも多いと聞いた。

虐げていたことがバレてしまえば罰を受けるが、それでも恥を晒したくないと考えるからだ。


だがイザックはマグリットから微かな魔力の気配を感じたのだ。


(もしかしたらマグリットもなんらかの力を持っているかもしれない……)


そう思っていたイザックはマグリットの力を注意深く観察するものの、本来持っている魔法の正体はわからないままだ。


(今度、魔法研究所に連れていってみよう。ローガンに見せれば何かわかるかもしれない)


ローガン・リダは変わり者の魔法研究所の所長であり、イザックの唯一といっていいほどの友人だった。


イザックが腐敗魔法が使えるとわかったのは三歳の時だった。

あまりの強大な力に周囲の者は誰も近づけなかった。

気を抜くと母親や乳母さえも火傷のような傷が腕にできてしまう。

イザックは自らの力が他者を傷つけると知り、そのことがトラウマになってしまう。


周りにある植物を枯らして触れたものを腐らせる。

大切なものすら傷つけてしまうこの力を何度憎んだろうか。

誰かが『悪魔の力』だと言った。

寂しい幼少期は力をコントロールできるようになるまでで終わると思いきや、既にすっかりと腐敗魔法の恐怖が周囲の者に染みついた後だった。



「俺に触らないでくれ」



人間不信になるのには十分だった。

誰にも受け入れられることはなく、イザックは誰かに触れることを恐れていた。

ましてや結婚などありえないと思っていた。


イザックの性格が捻くれなかったのは周囲の人間や家族に恵まれたからだ。

十歳差で生まれた兄はイザックの力にも必ず意味があるはずだと励ましてくれた。

両親もイザックを拒絶することなく、兄と変わらず愛情を与えてくれた。

気休めでも嬉しかったことを覚えている。


しかしその他はすべて受け入れられない。

こちらを見る恐怖の視線や畏怖の感情に、イザックは早々に王位継承権を放棄して自分の力を活かせる場所へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ