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シシーとマイケルは不思議そうな視線を送っている。

しかしマグリットはイザックに今すぐに問わなければいけないことがある。



「イザックさん、いいえ……イザック様。あなたが〝ガノングルフ辺境伯〟だったのですか?」


「…………あぁ」


「どうしてそんな嘘を……?」



マグリットはイザックがガノングルフ辺境伯とは気づくことはなかった。

社交界に出ていないどころかネファーシャル子爵邸から出たことがないマグリットはイザックの姿を見たこともなく、驚くべきことにファーストネームも知らないままここに来たのだ。


ガノングルフ辺境伯がずっと屋敷に帰ってこない理由も、本人がずっと屋敷にいるのだから当然だろう。

今まで感じていた違和感の理由もイザックがガノングルフ辺境伯だとしたら辻褄が合うのではないか。


(まさかイザックさんがガノングルフ辺境伯、本人だとは思わなかったけど……)


マグリットはギュッとエプロンの裾を掴んで小さく肩を震わせていた。


マグリットの脳内にはこの一カ月の間、イザックと過ごした日々が走馬灯のように流れていく。

知らなかったとはいえ買い物や洗濯物、掃除も手伝わせて野菜の皮剥きもさせた。

すべて使用人や侍女たちの仕事なのに王弟でありガノングルフの領主でもあるイザックに、だ。


マグリットがここに来てからイザックを使用人と思い、親しい友人のように接していた。

毒味もなく食事を食べさせたり家事をさせたり……国王の耳に届いたら間違いなくマグリットの命はなさそうだ。

不思議なのはイザックがそのことをわかった上で、マグリットの好きにさせていたということだ。


(どうしてイザックさんは自分がガノングルフ辺境伯だということをずっと黙っていたのかしら……)


イザックは申し訳なさそうに眉を顰めている。



「……マグリット」


「イザック様は……どうして私に黙っていたのですか!?」


「嘘をついてすまないと思っている。だが、俺は……っ」



イザックの言葉は最後まで紡がれることなかった。

イザックが立ち尽くすマグリットに手を伸ばす。

しかし触れる前に止めてしまう。

マグリットの頭の中ではあることがせめぎ合っていた。


(イザックさんがガノングルフ辺境伯だということは腐敗魔法が使えるのよね?わたしがずっとずっと待ち望んでいた腐敗魔法が目の前に……!)


むしろ仲が深まったことで頼みやすくなったのではないだろうか。

マグリットはここに来た時からずっとガノングルフ辺境伯に頼みたいことがあった。

大きく息を吸ったマグリットはイザックの手のひらを力強く掴んだ。

それには彼も驚いたようだ。



「ずっとイザック様に言いたかったことがあるんです。その魔法について……!」


「ああ、わかっている。マグリットには申し訳ないことをしたと思っている。いくら謝罪しても足りないくらいだ」


「……わたしは」


「この責任は取るつもりだ。だが魔法の力で家族に復讐するのは」


「──是非、その魔法の力をわたしの料理のために貸してくださいっ!」


「は…………?」


「ジュル……おっと、よだれが」



マグリットは握っていたイザックの手を離してハンカチをポケットから出して口端から溢れそうになったよだれを拭う。

イザックはマグリットの言葉の意味がわからないのか唖然としている。



「ぬか漬けに味噌、醤油に納豆、魚醤、パン、甘酒、塩麹……!」


「ヌカズケ、ミソ……なんだそれは?」


「この世界でわたしの夢を叶えてくれるのはイザック様、あなただけですっ!」


「マ、マグリット?」


「是非ともイザック様の力をわたしに貸してくださいっ!」


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― 新着の感想 ―
[一言] 発酵だけでなく熟成とかも可能なのかな。あと菌を活性化で考えるとキノコ類もいけそうね。菌類の椎茸みたいなものと発酵食品である鰹節あればレパートリー増えそうね。
[一言] 腐敗魔法ときたらそりゃもう麹菌探すしかない…!日本人が長年かけて育成してきたオリゼーを探して醸すのは大変でしょうが頑張って!!まずは魚醤からレッツゴー!! 豆板醤も作れそう
[一言] 強い(確信)
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