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未だにガノングルフ辺境伯の状況はわからないが、彼から信頼されているイザックに雇ってもらえたのはありがたい。

それにまた以前と同じように料理をしてもいいと言われたのは本当に幸運だった。



「イザックさんのお口に合いますか?」


「食べたことがない味だが、とても美味しい」


「よかったです!」



次々に空っぽになる皿。

「おかわりしますか?」と、言うとイザックは「いいのか?」と言って皿を差し出す。

味も気に入ってくれたようで何よりである。



「イザックさんが皮を剥いてくれた野菜もたくさん入ってますから」


「……そうだな。ありがとう」


「はい!」



なんだか一日で距離が縮まったような気がして、嬉しくて笑みが溢れる。


その晩、イザックが淹れてくれた珈琲を飲みながらマグリットは他愛のない話をしていた。

はじめはガノングルフ辺境伯について聞こうとしたが、うまく話を逸らされてしまい次第にマグリットが育ってきた環境について話は進む。


マグリットの話をイザックは真剣に聞いてくれたのだが、長旅や家事の疲れか眠気が襲い、目を擦るとイザックは気を利かせてくれたのか声を掛けてくれた。



「もう休んだ方がいい」


「はい……そうさせていただきます」


「今日はありがとう」


「こちらこそ、ありがとうございます。イザックさん」



イザックに一礼すると彼は小さく首を縦に動かした。

その表情は最初の時と比べて温かく感じた。

蝋燭を手に取り、マグリットは足を進める。

昼よりも波の音がよく聞こえた。


月明かりに照らされて夜なのに部屋の中も明るい。

部屋の中に入り、あまりにも順調に物事が進んだことが嬉しくなりマグリットはベッドに飛び込んだ。


(本当だ。太陽の匂いがする……)


カビ臭い屋根裏部屋ではなく、広くて綺麗な部屋。

真っ白なシーツに波の音。鼻に抜ける珈琲の香ばしい匂いが残っていた。


(イザックさん、とてもいい人だったな)


マグリットは目を閉じて幸せを感じながら眠りについた。



* * *



次の日からイザックと屋敷の大掃除が始まった。

ガノングルフ辺境伯の部屋も含めて屋敷中を磨きあげていく。

休憩の合間にガノングルフ辺境伯はいつ帰ってくる予定なのかを問いかけてもイザックは「わからない」と答えた。


(忙しいのかしら……それとも噂通り、怖い方だったら?)


マグリットは屋敷の権限を握っているイザックが何も知らないことを不思議に思った。



「早く会ってお話ししてみたいな」


「話したところで嫌だと思うに決まっている」


「そうでしょうか?」


「ああ、皆そう言って去っていくんだ」


「……」



まるでガノングルフ辺境伯の話を自分のことのように語るイザック。

マグリットは違和感を感じたが、ガノングルフ辺境伯にも事情があるのだと思い、深く掘り下げて聞くことはなかった。


(皆に恐れられる腐敗魔法……どんな方なんだろう。やはり気難しい方なのかしら。わたしのお願いを聞いてくれないかもしれない)


けれど折角、自分の夢を叶えるチャンスが目の前にあるのに簡単に諦めたくはない。

ガノングルフ辺境伯と会うのが待ち遠しいと思っていた。

気持ちを抑えながらマグリットは毎日を過ごす。


一週間、また一週間と時間が過ぎていく。

三日に一度はイザックと共に街に行って露店で食べ物を買って昼食をとっていた。


マグリットはここでの生活に慣れてそろそろ早朝の市場に行って新鮮な魚を仕入れようと気合い十分だ。

いつものように野菜を売っている店主と奥さんと世間話をしていた時だった。



「そういえば、マグリットちゃんはどこで暮らしているんだい?」


「買い物に来る時以外、顔を見ないから不思議だって皆で話していたんだ」


「わたしですか?わたしはガノングルフ辺境伯の元でお世話になっています」



マグリットがそう言うとまるで時が止まったかのように周囲から音が消えた。


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