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──数カ月後。
マグリットとイザックは久しぶりに二人きりで屋敷にいた。
外はもうすっかりと肌寒い季節だ。
庭山さんの『コッコーッ』という元気な声が聞こえる。
毎朝、世話をしているが相変わらずマグリットには懐かずにイザックには甘い。
そして今日は念願の日。新しく醤油を仕込んだのだ。
ミアとオリバーに手伝ってもらいながら、醤油の下ごしらえは終えていた。
もちろん来年用の味噌の下準備もバッチリだった。
イザックの種麹を作る技術もどんどん上がっていく。
マグリットは醤油が入った瓶をかき混ぜた後に蓋を閉めて、安心感から息を吐き出す。
食糧庫の中に置いて手を合わせた。
(うまく発酵してくれますように……!)
あとは醤油が発酵してくれるのを待つのみだ。
うまくいけば同じ時期に島のうるち米も収穫できる。
マグリットが待ち望んだ日本食までもう少しの我慢で手がとどくだろう。
マグリットは手を擦りながら寒い食糧庫から出る。
くしゃみをしたマグリットを包むようにイザックがストールをかけてくれた。
サラッとした生地は肌触りがいい。
イザックと共にソファに腰掛ける。
テーブルには熱々の珈琲が二つ置かれていた。
「イザックさん、今回も手伝ってくれてありがとうございます!」
「ああ、構わない。今度は醤油がうまくできるといいな」
「はい……! 今度は絶対にうまくいく気がするんです」
「俺も食べてみたい。オモチに砂糖とショウユを合わせると最高なんだろう?」
意外にもイザックはお餅が気に入っているらしい。
醤油がどんな味なのか楽しみにしている。
イザックと寄り添いながらマグリットは温かさに目を閉じた。
マグリットの冷たくなった手をイザックが握ってくれる。
「温かいですね……!」
「ああ、そうだな」
イザックの隣はとても安心する。
そう思うようになったのはいつからなのだろうか。
この時間がずっと続けばいいのに……そう思わずにはいられない。
指を一本一本、絡ませるようにして握る。
(大きな手……イザックさんと一緒にいることができてすごく幸せ)
マグリットが瞼を開けると、イザックがこちらを優しい瞳で見つめている。
そんな彼を見ていると、自然と言葉が漏れる。
「イザックさん、大好きです」
「ああ、俺もマグリットを愛している」
そう言ったイザックはマグリットの額に触れるだけのキスをする。
くすぐったさにマグリットは笑っていると、イザックはそれを止めるように唇にキスをする。
甘い時間にとろとろに溶けてしまいそうだ。
「マグリット、愛している」
「……っ!?」
イザックの低い声が耳に届くと心臓が高鳴っていく。
マグリットも彼の気持ちに応えるように口を開く。
「わ、わたしも愛してますから……!」
顔を真っ赤にしながら、そういうとマグリットの輪郭をなぞるように手を滑らせる。
「君に出会えた……これ以上の幸せは他にない」
「……!」
「君が望むものはなんだってあげたいんだ」
イザックはそう言ってマグリットの顔を傾けてからキスをする。
顔が離れると体を固くしていたマグリットも、イザックに抱きつくようにして体を預けた。
「これからも一緒にいてくれ」
「……はい、もちろんです」
二人でこれからの明るい未来についていつまでも話をしたのだった。
醤油編 end
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