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しかし実際は彼を海に流したのだろう。
そのことをラファエル本人に伝えることはできなかった。
その事実が明らかになってから、シナルード伯爵家に調査が行われた。
シナルード伯爵は、やはりラファエルを髪色や瞳の色と魔法をつかえないことから闇魔法を使うのではないかと恐れていたそうだ。
シナルード伯爵家から闇魔法使いを出すわけにはいかないと、ラファエルが五歳の時に病死とした。
死体が残らないように海に流したらしい。
ずっと牢にいたラファエルは言葉も覚えなかったことや、人との関わりがなかったラファエルはされるがままだった。
運よく島に流れ着いたことで島民たちに育てられたのだろう。
彼が過酷すぎる幼少期をどこまで覚えているのかはわからないが、きっとつらかっただろう。
ラファエルと同じ状況で虐げられていたマグリットでも同情してしまう。
(だからラファエルは何も言いたがらなかったんだわ)
もしラファエルが雨を降らせることができるのなら、雨が降らずに苦しむ地域の救世主となる。
食糧不足の解消にも繋がり、彼の力は喉から手が出るほどに貴重なものとなるのだろう。
だが、ラファエルがシナルード伯爵家に戻ることは絶対にない。
彼らはラファエルを手放して後悔することになるだろう。
シナルード伯爵家には他の貴族たちと同様に、ラファエルの親権を剥奪。
ラファエルの扱いは重く受け止められて、降格などの罰を受けることになった。
『ラフ……ラファエル、話してくれてありがとう。これからはわたしもいるからね』
『……うん!』
だが、ラファエルは島から出たくないと言った。
渋るラファエルにマグリットはあることを告げる。
『わたしもラファエルと同じだったの。魔法が使えることがわからなくて、みんなに心配をかけてしまったのよ』
『……』
ラファエルは自分の両手のひらをじっと見ている。
『だから力をコントロールするための訓練をしたの。ラファエルも必要になると思う……それに早い方がいいと思うわ』
『早いがいい、わかった』
ラファエルはマグリットの言葉を聞いて納得したようだ。
やはり島の人たちに迷惑をかけたくないという思いが強いのだろう。
『マグリットと一緒、行く。オレ、がんばる』
『わたしも月に一度は魔法研究所に行っているの。ラファエル一緒に行きましょうね』
『うん。それから国の言葉、教えて……島の人たち、役に立つ。がんばる』
ラファエルはベルファイン王国の言葉を学びたいそうだ。
言葉を学んで島民たちに教えてあげたいと語った。
そしたら商売もできるし、色々と教えてくれた領民たちにちゃんとお礼を言いたいのだそうだ。
『もちろんよ! たくさん学びましょうね』
『ありがとう、マグリット!』
前向きに島民たちのために頑張ろうとするラファエルをマグリットは支えようと思った。
ラファエルと相談して島ではラフ、ベルファイン王国にいる時はラファエルと名乗ることになった。
ラファエルが魔法研究所に来ることを心待ちにしていたローガンに彼と共に王都に向かうことを伝えると彼は大喜び。
早馬で早く早くと急かすような手紙が何通も届くようになる。
これからは言葉がわからないラファエルがちゃんと訓練ができるようにマグリットがフォローしていかなければならない。
イザックとラファエルと一緒に王都に向かう日。
ラファエルは見たことがないものや初めてのことばかりで大混乱。
まるでマグリットたちを追いかけるように雨は降り続けてしまう。
土砂降りの雨が降り続けて、マグリットの魔法を使うわけにもいかずに戸惑っていた。
王都に到着してからも取り乱すラファエルは逃げ出してしまい、半日以上彼を落ち着かせて追いかけて過ごすことに。
太陽が沈む頃に魔法研究所まで辿り着いたマグリットはもうボロボロだった。
そこからテンションが高いローガンを警戒してラファエルは彼にまったく近づこうとしない。
(まだまだ時間が必要ね……)
少しずつラファエルの魔法について解明していかなければならないため、マグリットを間に挟んで魔法コントロールの訓練を始めたのだった。