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「マグリットを攫ったあの子……魔力の流れが見えたよ」
「魔力って……ラフのことですか!?」
マグリットは大きく目を見開いた。
人の魔力の流れを感じ取ることができるローガンが言うのだから、間違いないのだろう。
それと同時にあることが頭を過ぎる。
市場の時間だけ強い弱いに関係なく雨が降るということだ。
それはもしかしてラフの力によるものなのだろうか。
しかし島に着いてからは雨が降っていなかった。
そうなると雨が降っていたのは偶然で、何か他の力が関係あるのかもしれないと思った。
マグリットはそのことを話していく。
ローガンも首を傾げつつ、ラフの情報がもっと欲しいと言った。
「ラフのことについて、彼らから何か聞いていないかい?」
「島の長から聞いたのですが……」
マグリットは、五年前にラフが小舟によって島まで流されてきたことを話した。
それからは島で長に育てられるような形で暮らしてきたのだ。
「それだけかい?」
「はい、あまり……聞けるような雰囲気ではなくて」
「……そうか」
「でもラフが市場に来るようになった時期と雨が降り出した時期が一致するような気がするんです」
「なるほど……雨を降らす力か。無意識にだとマグリットと同じか? だが、何か条件が……」
数年前ということは、ラフも記憶が残っているのではないだろうか。
彼の気持ちを考えると、聞き出せそうになかった。
けれど魔力を持っているということは、ラフはどこかの貴族の血を引いていると考えていいのだろう。
けれどベルファイン王国の言葉がわからないとなると……。
「魔力がないことやあの髪や瞳の色が原因かもしれないな」
イザックの言葉にマグリットとローガンは頷いた。
闇魔法に近い色、魔力がわからないとなればひどい扱いを受けていたことが安易に想像できる。
「ラフ……名前やその辺りの年齢で生まれた男の子がいないか、研究所に帰ったら調べてみるよ」
「……!」
「もし本当に魔法を使えるのが彼ならば、ラフには一度、魔法研究所に来てもらわないと。今は小さな影響しかなくとも使い方を学ばなければ周囲にとっても自分にとってもよくないからね」
「そうですよね」
マグリットのように無意識に力を使い続ければどうなってしまうのか。
自分が一番、よく知っているではないか。
「もし雨を降らす力だとしても、本人が自覚していないとなると検証は難しい。雨も偶然とも言いきれないけど違う力の可能性もある。それに言葉が通じないとなると尚更だ」
ローガンはラフのことが気になって仕方ないようだ。
またマグリットとは違う天気に関わる力だ。
それも常にでもないと、また何か条件が変わるのだろうか。
ラフに詳しく聞いてみないとわからない。
「俺も父上に報告しなければ。領土とはいえ今まで無人島だと思い込んでいた。屋敷に閉じこもってばかりいた自分が恥ずかしい」
「イザックさん……」
「それに島民たちのためにできることはたくさんありそうだ」
「わたしも全力で手伝いますから! なんでも言ってください」
「ああ、頼りにしている」
イザックはマグリットの頭を優しく撫でてくれた。
マグリットもそれに応えるようにイザックに抱きついた。
マグリットでなければ島民たちやラフの言葉がわからない。
これから通訳として忙しくなるだろう。
今まで『残りカス』と言われたマグリットだが、みんなの……イザックの役に立てるのはとても嬉しい。
この先、どうしていくのか話し合いは夜遅くまで続いた。