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どうやらうるち米、マツシタさん、稲など、日本語をたくさん使い説明したことで、いつも以上に理解できなかったようだ。
興奮しすぎると周りが見えなくなってしまうのはマグリットの悪い癖だろう。
マグリットは反省しつつ、一つずつ言葉の意味を丁寧に説明していく。
すると三人は内容を理解してくれたのか、納得したように頷いている。
「つまり島民たちが島にやってきた際、マツシタサンという男性が彼らに言葉やイネの育て方を教えたのですね! だけどマグリット様がずっと探していたウルチマイは食べ方が間違っていたから、育てられておらず、オモチのイネは育てていたと」
「そうなのよ、ミア! でも来年にはうるち米の稲を育ててくれるみたい。イザックさんのおかげで来年は米が……米が食べられるかもしれないんですからっ!」
「よかったな、マグリット」
「はい。イザックさん、本当にありがとうございます!」
マグリットはイザックに心から感謝していた。
何故、あの島に稲があったのかはわからない。
マグリットもアデルの代わりにガノングルフ辺境伯に来なければ、こうして稲やお餅にも出会うことはなかった。
それもイザックがマグリットのためにとうるち米を育てて欲しいと頼んでくれたからだろう。
イザックはガノングルフ辺境伯領で飢えに苦しむことがないようにと言っていた。
すぐにサポートしてくれたこともありがたい。島民たちもマグリットも大喜びだ。
これからはマグリットも通訳として忙しくなりそうだ。
「マツシタさんにも会ってみたいなぁ……」
「……!」
マグリットのマツシタに対する特別な感情に気がついたのだろうか。
イザックがピクリと反応をする。
「マツシタとは、男なのか?」
「はい、マツシタさんは男性だと思います。島から出てどこに行ったのか気になりますね」
「……………」
イザックの不満そうな表情に気づいて、マグリットは誤魔化すようにヘラリと笑う。
それをソワソワした気持ちで見守るミアとオリバー。
マツシタと名乗る男性がいなければ今頃稲は他の雑草として埋もれて見つからないままだった。
奇跡の巡り合わせに感謝である。
マグリットはイザックにマツシタについて質問責めにあっていた。
その度に誤魔化し続けて、マツシタのことをよく知らないのに彼は商人として活躍しているということになってしまった。
ミアは今までの話をまとめてくれた。
「つまりそのマツシタサンは商人になっていて、マグリット様もネファーシャル子爵家にいる時に言葉を習ったから理解できる、ということなんですね」
「え、えぇ……そうかも!」
「でもそんな短期間で理解できるんですか?」
「それは、えっと……本を貸してくれて、それで勉強していたのよ!」
マツシタが島から出た後にどうなったのかまではマグリットにもわからない。
わからないが整合性を持たせるために今はこうして言い訳するしかないだろう。
(マツシタさん、本当にごめんなさい……!)
嘘をついて申し訳ないと反省しつつも、今後の明るい未来を思い浮かべて笑みを浮かべた。
そんな時、具のないスープを飲み終わったローガンが声を上げる。
「……マグリット、聞きたいことがあるんだ」
「ローガンさん、無理しないでください。体調は大丈夫ですか?」
「いや……今、話した方がいいと思って……うぐっ」
口元を押さえてえずくローガンの背を摩る。
片手を上げながら大丈夫だとアピールしているローガンだが、まだ具合が悪そうだ。
『僕は二度と船には乗らない』
そう宣言した彼は、荒く息を吐きながら呼吸を整えている。