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「マ、マグリット……! 無事で、よかっ……オエーッ」
「ローガンさん、大丈夫ですか!?」
ローガンに声をかけられたかと思いきや、また膝をついて色々と吐き戻しているではないか。
マグリットはあまりにも具合が悪そうなローガンが心配になり、そばに行こうとするがイザックに引き止められてしまう。
どうやら船の上から具合が悪すぎて手がつけられない状況らしい。
(これは帰りも大変そうだわ……)
マグリットがローガンに同情していると、イザックは今日はマグリットに屋敷に帰ることを提案する。
地図を取りに屋敷に帰った際、ミアとオリバーにも事情を説明したそうだ。
二人はマグリットのことをかなり心配していて、港で帰りを待っている。
マグリットも二人のために早く帰りたいと思いつつ、島民たちと米のことで後ろ髪を引かれる思いだった。
マグリットがどうするべきかと悩んでいると、イザックがある提案をする。
「マグリット、彼らに言葉を伝えてほしいのだが頼めるか?」
「はい、もちろんです」
マグリットはイザックの言葉に頷いた。
イザックはここがガノングルフ辺境伯領であること。
そして自分がここを治めている領主であることを伝える。
島民やラフたちは、この島から出ていけと言われるのではないかと不安そうに眉を寄せている。
心配そうな声がマグリットの耳に次々に届く。
マグリットもイザックが何を言うつもりなのか、わからずに通訳を続けていた。
「俺が治める領で食料で苦しむことがあってはならない。すぐに手厚い支援を約束しよう」
「イザックさん……!」
マグリットは驚いて名前を呼ぶと、イザックは優しい笑みを浮かべている。
マグリットは嬉しくてたまらなかった。
それと同時にイザックが『俺の領で苦しむ人々がいることが許せない』と言っていたことを思い出す。
それを長やラフたちに伝えると、そこら中から歓声が上がる。
するとイザックを拝めるように手を合わせている。
そのまま地面に座りこんで地面に頭を擦り付ける勢いだ。
それにはイザックの表情も引き攣っていく。
「そのかわり……」
『そのかわり……?』
マグリットはイザックの言葉を復唱していたのだが、島民たちは固唾を飲んでこちらを見つめている。
それはマグリットも同じだった。
イザックが何と引き換えに条件を出すのかわからなかった。
「マグリットの願いを叶えてほしいと、伝えてくれ」
「……っ!」
マグリットは彼の言葉に目を輝かした。
熱い思いが込み上げてきて、思わずイザックに抱きついた。
それからマグリットは顔を上げると、お礼を言うために口を開く。
「イザックさん、ありがとうございます……!」
「ここにはマグリットが長年、追い求めていた食材があるのだろう?」
「はい!」
『マグリット……イザック様、何て言ったの?』
心配そうなラフにマグリットは安心させるために頭を撫でる。
『今まで通り稲を育てて欲しいんだけど、さっき見たもう一つの稲も育てて欲しいの!』
『マグリット、ウルチマイ、言っていた……アレのこと?』
『えぇ、そうよ!』
ラフは大きく頷いた後に、嬉しそうに皆に説明している。
稲を育てているリーダーの男性が大きく頷いていた。
どうやら島民たちは納得してくれたらしい。
来年までにはあの場所を整えて、あのうるち米をもち米のように育てると、約束してくれた。
マグリットはその場でピョンピョンと飛び跳ねるようにして喜んでいた。
島民たちとの話をするために、マグリットと共にまた明日に訪れることを約束する。
具合が悪く弱っているローガンを連れて船に戻った。