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「イザックさん、聞いてください! おじいさんは急にわたしをここに連れてきて申し訳ないと言っています……!」
「マグリットは言葉がわかるのか?」
「はい、わかります!」
マグリットは首を縦に振って、彼らに敵意がないことをアピールする。
「何故……」
イザックは不思議そうにしているが、マグリットはすべての説明を飛ばして、叫び出したいこの気持ちを伝えたくて仕方なかった。
(──米ッ、ここには米があるのよ!!!!!)
言葉が通じる理由、ここに連れてこられた理由……それよりもマグリットの頭を埋め尽くしている米という存在。
マグリットは堪えきれずにイザックに詰め寄って手を握る。
イザックは怒ることすら忘れて、唖然としている。
マグリットはイザックを見つめながら、希望溢れる瞳を向けて気持ちを伝える。
「イザックさん、ここは希望の島です……っ!」
「希望の島……?」
「わたしがずっとずっと探し求めていたものがここにはあります!」
興奮気味にズイズイとイザックに迫るマグリット。
イザックはチラリと島民に視線を送りつつも、マグリットを落ち着かせている。
マグリットがここまで興奮して喜ぶということは何があるのかわかったのだろう。
イザックはあることを問いかける。
「まさか……ずっと探していた食材を見つけたのか?」
「はいっ! この島にあったんです!」
マグリットがブンブンと首が千切れそうなほど何度も頷いたことで、イザックは安心したのだろうか。
長いため息を吐いた後に、額を押さえている。
「マグリット……心配したんだぞ」
「あっ……ごめんなさい!」
「……もういい。無事でよかった」
マグリットが船でラフと島に向かったことで、イザックはすぐに船を出すように掛け合ってはいたそうだ。
船を出すために準備に手間取ったことや、どこに向かうのか説明するたに地図を取りに行ったりと大変だったらしい。
そんな中、マグリットはもち米とうるち米の稲に大興奮していたのだ。
マグリットを抱きしめるイザックの逞しい腕は微かに震えているような気がした。
心配をかけてしまったと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
マグリットはイザックを抱きしめ返す。
島民たちはマグリットたちの会話内容は理解していないが、状況から何かを察したのだろう。
ラフが涙目になりながらも、イザックに『マグリットを急にこに連れてごめんなさい』と謝罪する。
マグリットという名前と、ラフの表情でイザックもなんとなく言っていることがわかったのだろう。
イザックはラフの頭を撫でた。
イザックの表情が和らいだことで、緊張していた島民たちが安心したように息を吐き出した。
それからイザックに島民たちがここに来た状況。
他の作物を探し求めて、ラフが餅を売りに市場に来ていたことなどを説明する。
ボロボロの服を着ていたのは、植物の大きな葉などを巻いた原始的な格好をしているためだったことも。
そのため海から流れ着くものをラフたちは使っているらしい。
彼らの言葉が特殊なため、マグリットにしか理解できないこと。
島に流れ着いた男性が島の人たちに教えた特殊な言語で、マグリットもその男性からネファーシャル子爵家にいた時に教わった……ということにしておいた。
イザックは納得したように頷いている。
気持ちが落ち着いたのかフラフラと顔が真っ青なローガンが口元を押さえてこちらにやってくる。
(……ローガンさん、船酔いかしら)
マグリットの予想通り、ローガンは気分が悪いようで今にも吐いてしまいそうだ。
こちらに視線を向けるが、眼鏡はずれているし目は充血していて恐ろしい。
やはり彼は乗り物に弱いようだ。