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今回、マグリットと言葉が通じたことでラフはこの島に連れてきて、助けてもらおうとしたのだという。
(なるほど……そんな経緯があったのね)
今までのラフの行動に納得していたマグリットだったが、彼の持っていた茶色のカゴを見て、話は米のことへと移る。
『あの、わたしに稲が栽培されているところを見せてくれませんか?』
『ラフ、案内してやれ』
『わかった! マグリット、こっち』
ラフに連れられるがまま、マグリットは森の中へと入っていく。
その後ろには稲を育てるリーダー的な存在の中年男性の姿。
暫く歩いていくと、ひらけた場所がありそこには黄金色の稲穂が一面に広がっていた。
(水も田んぼもない。もしかしてここで育てているのは陸稲なのね! 小さな島だけど、ここには川はあるのかしら)
どうやら小さな川はあるようだ。
水田栽培ではないことに驚いていた。
それから陸稲がこれだけ育つのだから、ここには雨がよく降るのだろうか。
マグリットは稲穂を見ながら感動から手を合わせた。
(な、なんて美しいの……!)
前世では見慣れた光景だが、マグリットとしてみるとまるで夢でも見ているようだ。
この時期に一気に収穫して、一年分の保存食にしたり主食にして食べているそうだ。
なるべく土地を広げて稲を育てているそうだが、お餅と魚、山菜が主食だと飽きがくる。
他の作物も育ててみたいそうだが、さっぱりだそうだ。
その証拠に二週間前にラフが買った果物が頭だけのぞいて埋められていたり、野菜の葉がしおしおになって土の上で枯れている。
これでは畑に根付いて増やすまでは時間がかかりそうだ。
ガノングルフ辺境伯領でも作物はたくさん育てている。
マグリットも全部の野菜や果物の育ち方を把握しているわけではないが、このやり方が間違っていることだけはわかる。
マグリットは微かな可能性にかけて、あることを問いかける。
『この稲以外に……これとそっくりでお餅は作れないけれど、白い半透明な粒ができる稲はありませんかっ!?』
マグリットの拙い説明に男性は首を傾げている。
しかしラフが何かを思い出したように呟く。
『マツシタ、ご飯おいしい言ってた! だけど食べたら苦くて、ザラザラ。おいしくない』
『……マツシタ?』
どうやらその男性は〝松下〟と名乗っていたらしい。
(松下さん……! やっぱり日本の人なのかしら。いつか会ってみたいわ)
マグリットのように前世の記憶を持っているのなら、是非とも話をしたい。
長の息子であるリーダー的存在の男性はついてこいと言わんばりに手招きする。
それから家が並んでいる場所を抜けて反対側へ。
足場が悪い場所をどんどんと進んでいくため、マグリットはついていくだけ精一杯だ。
するとマグネットほどの背丈の雑草がぼうぼうと生えている場所までたどり着く。
マグリットは肩を揺らしながら呼吸を整えていた。
『この稲、うまくない。だからあまり残していない。この辺、あるはず……』
草をかきわけていくなだが、よくわからない虫が飛び立ったり、黒くて足が長い虫も這って出てくるではないか。
バサバサと草をカマのようなもので切り取って、どんどんと進んでいく。
マグリットも少々驚きつつも、様子を見ていると……。
『ここ、あった!』
『……!』
マグリットの前には夢にまで見た米がある。
その場にしゃがんで稲の穂を確認をする。
穂は先ほどよりも長細くなっている気がしていた。
(こんなところに……! 米が……っ、うるち米が!)