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けれどマグリットも前世の記憶があるとは言えない。

マグリットは、とある商人から教わったということにしつつその場を乗り切った。


島民たちはその商人が恩人の男性ではないかと疑っているようだが、マグリットはわからないとしか答えることしかできない。

さすがにその男性もこれが日本語という言語だということは伝えていないようだ。

だから島民たちは餅や白米など、日本でしか呼ばれていない食材のことを知っているのだろう。


マグリットが納得しつつ、ラフがガノングルフ辺境伯領に干し餅を売りにきていたことに話は移る。

しかしラフの表情はどんどんと曇っていってしまう。



『オレは……』



ラフが何かを言いかけたが言葉を止めてしまったため、代わりに島民をまとめている長が口を開く。



『ラフ、舟で流れてきた』


『……!?』


『ワシ、拾った。ラフ、育てた』



どうやらラフは捨て子のようで、たまたまこの島に流されてきたようだ。

ラフと島民の彼らの見た目には大きな違いがある。

それが五年前ほどのこと。



『ラフ、王国の人間に見える。だから干し餅。売る。いいと思った』


『どうして今になって干し餅を?』


『新しい食材、欲しい。市場、全然だめ。売れない。何もダメ』



ラフが大きくなり、彼の見た目がベルファイン王国の人間に近いことから市場に干し餅を売りに行かせた。

その代わりに新しい野菜の種を得ようとしていたようだ。

最初にも言っていたが、この島には食べられるものが少ないらしい。


日本語しか知らないラフがベルファイン王国の市場に行ったとしても言葉が通じるはずもない。

オリバーやミアが話しかけても答えなかったのではなく、何を言っているのかわからなかったのだろう。


餅のおかげでここまで生きながらえたのは喜ばしいが、魚と餅、野草では飽きてしまった。

他の食材を得るために餅を売り捌いて他の食材の種を得たかった。

そう説明されて、ラフが市場に出ている理由が納得できてしまった。


マグリットは島の長に餅が売れない理由を話していく。

彼らは餅をパンのようにそのまま食べていた。

食べられなくはないが甘味も少なく、パサついて塩っぽい味は美味しいと感じるかは微妙だ。



『食べ方がわからなければ売れないと思うわ。皆、パンのようにそのまま食べていたけど、美味しくないと言っていたから』



マグリットがそう言うと島民たちは驚いている。

保存食であることすら気づいていない。

ここでは餅に熱を入れて食べることが当たり前らしい。

だけど説明がなければ、オリバーのようにそのまま食べてしまうだろう。



『それに値段も書いてなかったから……』


『値段……わからない』



ラフはそう言って、苦い顔をしていた。

金額もなんでもいいと言っていたのも、ベルファイン王国の貨幣の価値を知らなかったからだ。

それもガノングルフ辺境伯領で使われている言葉が理解できないのなら無理もない。



『ごめんなさい、じいちゃん……』



長は申し訳なさそうにしながらもラフの頭を撫でている。

二人の関係は特別になものに思えた。



『言葉が通じなかった、仕方ない。ラフ、頑張った』


『……ありがとう』



島民たちの期待を背負って、ラフは小舟を漕ぎ毎週、市場まできたのだろう。

そこまで市場がいつ開かれるのか、どのように売っているのかを何カ月も調べてから、こうして売りにきたそうだ。

だが言葉の壁は大きく、子どもであるラフには難しかったに違いない。


オリバーが全部餅を買った時のお金で野菜や果物を買って持ち帰るものの、野菜の育て方や食べ方もわからない。


次にミアとオリバーが来た時は、淡々と話しかけてくるミアに責められているように感じて逃げ出してしまったそうだ。


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