129
『ラフは悪くありません! それとわたしはマグリットです。すべて言葉は理解できています……!』
そう叫んだことで、これでもかと目や口を開いた島民たちがマグリットを見ている。
ラフはどうだと言わんばかりに胸を張っているではないか。
マグリットには聞きたいことが山ほどあった。
どうして日本語を話すのか、何故市場にラフが餅を売りにきたのか。
この島にはいつから住んでいるのか、稲を育てているのは何故なのか、どうして稲があるのか……。
しかし一番に聞きたいことは他にある。
『──お米はないのですか!? もち米ではなく、うるち米! 白米の原料となる稲はこの島にあるのでしょうか!?』
『『『『…………』』』』
長と呼ばれた男性に詰め寄るマグリット。
マグリットの勢いに驚いているラフと島民たち。
鼻息荒く答えを待っていたのだが、何も答えてはくれない。
『ウルチマイ……? 稲、わかる』
『白くてふっくらしていて、もちもちしているもち米と似ているんですがまったく違うやつです! ここにうるち米はないのですか!?』
彼らはマグリットの言葉を聞いて、彼らは顔を見合わせている。
もしかしたら米の原料となる、うるち米は育てていないのかもしれないと思ったマグリットは大きなショックを受けていた。
(な、ないのね……あと一歩のところで! くっ……!)
どうやら現実はそんなに甘くなかったようだ。
マグリットは項垂れながらうまくいかない現実に下唇を噛んでいた。
『そんなぁ……』
『本当だ。言葉、通じる!』
『ラフの言った通り、わかる! すごい』
それからマグリットは島民たちからカタコトの言葉で質問責めされることになる。
どうしてここの言葉を知っているのかと言われても、こちらも同じことを質問したいと思っていた。
『どうしてこの言語を? あなたたちはどこから来たんですか?』
『……話すと長くなる。いいか?』
『もちろんです』
長はこの島に流れ着いた経緯を話してくれた。
彼らは元々、ダルク帝国近くの違う島に住んでいたが、ベルファイン王国との争いに巻き込まれてしまった。
帝国民に追われて、船でここにたどり着いたと語った。
だが、この島は寒くて果実などのすぐ食べられる食料がなく困り果てた時だった。
とある男が島にたどり着く。
『その男に言葉、稲の育て方、教わった』
『……え? どういうことですか?』
その男とは言葉も通じることなく、数年間共に過ごしながら言葉を教えてもらったそうだ。
元々帝国とはまったく違う文化を築いていた島民たちは、言葉というよりは音の高さなどの声を使って会話していた。
その男の言語に興味を持ち、すぐに覚えたのだそう。
男も熱心に言葉を教えてくれたそうだ。
その男もマグリットと同じようにうるち米やもち米について熱く語っていたそうだ。
元々、ここには元々稲が生えており彼は育て方や種を保存しておく方法を教えてくれた。
米の食べ方を教わったことで食糧難が解決したそうだ。
そのことに安心した男は『どうしても食べたいものがあるから探してくる』と、木材で船を作って、島から去って行ってしまったらしい。
その後、男の行方はわからないまま。
島民たちはもち米や魚、野草を食べながら食い繋いでいたらしい。
(彼らに日本語を教えた人がいるから、知っているということなのね……!)
マグリットはそれを聞いて、あることを思っていた。
もしかしたら自分のように日本の記憶を持った人がいたのかということだ。
次にマグリットがどのように日本語を知ったのかと問われた。
島民たちはその男性と繋がっていると思っていたのだろう。
食いついてきた理由はその男性に自分たちと同じように日本語を教わったのかと思ったのだそうだ。
しかしマグリットはその男性のことをまったく知らなかった。