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(やっぱり市場の時間だけ誰かがわたしのように無意識に魔法を使っているのかしら)


ローガンがいれば、もしかしたら魔法を使える人が見つかるかもしれない。

マグリットは不思議に思いつつも、視線はすぐに稲へと向かう。


(夢……じゃないわよね?)


マグリットは何度も何度も目を擦ったり、頬をつねったりしていた。

あんなに探し求めていたものが、目の前にあるなんて信じられない気分だ。


だが、これはすべて餅を作る原料、うるち米ではなくもち米なのだろう。

これがうるち米だったら何としてでも持って帰りたいと思っていた。


そんなマグリットの前に現れたのは一人の老人だった。

こんがりと焼けた肌に立派な口髭。

なんとなく文化の遅れを感じてしまう服は布を巻いただけの簡易的なものだ。


先ほどまでいた賑やかな街と自然に囲まれたここではまったく違う時代にきてしまったように感じる。

ラフと呼ばれている彼だけは、肌の色や顔立ちも大きく違ったように見える。


マグリットとラフはすぐにに囲まれてしまった。

どうやら怒っているようで、マグリットは戸惑っていた。

老人は地面に杖を押し付けると、怒鳴るように声を上げた。



『ラフ、余所者、何故連れてきた……っ!』


『長、聞いて。この人、オレたちの言葉わかる!』


『……!』



ラフがそう言うと、皆がヒソヒソと耳打ちをして何かをはなしているではないか。

『そんなはずはない……!』

『ここの言語は特殊なんだ。こんな若い小娘に理解できるわけないじゃないか』

『それなのにここに連れてくるなんて……!』

居心地の悪い空気にマグリットの口端がピクリと動いた。

言葉が理解できると言われて、改めて考えてみるといつもイザックと話しているベルファイン王国の言語とは違う。


マグリットは前世の記憶が戻ったのは幼い頃だということもあり、こちらの言語を当たり前に話していた。

言われてみれば、この島の人たちは違う言葉を話しているではないか。


(でも……どうしてわたしはこの言葉が理解できるのかしら。なんだか懐かしいような)


マグリットは何かを思い出せそうな気がしていた。

その間も、目の前で言い争いは続いている。



『嘘だ。わかっていない』


『わかる、嘘! だめだ』


『違う! 会話した。だからここに連れてきたっ』



マグリットがたしかに理解していたのだと必死に訴えかけている。

どうして違う言語が理解できるのかをじっくりと考えていると……。



『お餅、売れたのか!? お餅、どこ?』


「……!」


『お餅買いたい、言った! 作り方、知りたい、言った……!』



皆の視線がマグリットに集まる。

しかしマグリットは負けじと周囲を見つめ返していた。


(今……お餅って、言わなかった?)


一瞬のことで聞き逃してしまいそうになったが、確かに〝お餅〟と言ったのだ。

イザックやミア、オリバーたちは餅という言葉自体知らなかった。

けれど、この島の人たちは当たり前のように餅という名前を知っている。


(ということは…………この人たちが話しているのは〝日本語〟!?)


そう思うのと同時に鮮明に蘇る記憶。

マグリットは今、前世の記憶で話していた日本語を聞いているのだ。

マグリットは日本語を話している島民の人たちを見て目を見開く。


(どうしてこの人たちが日本語を話しているの?)


だからこそミアとオリバーはラフが何を話しているのか、わからなかったのだろう。

だけど前世の記憶があるマグリットには自然と日本語を理解することができた。


十数年ぶりに聞いた日本語。

最初の違和感の正体がわかり、ホッとしたのも束の間だった。

さらに激しくなるラフと長と呼ばれた老人の言い争いを聞いて、マグリットは慌てて口を開く。


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