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マグリットがそう思うのも無理はない。

この世界には黒髪、黒い瞳の人を見たことがないからだ。

マグリットも前世は日本人らしい髪色と瞳の色だったが、今はオレンジブラウンにヘーゼルの瞳だ。

貴族たちにもマグリットが知っている中では黒色を持つ人はいなかった。


ベルファイン王国が建国する前のこと。

真っ黒の髪と瞳を持つ闇魔法を持つ者が人々を苦しめていた。

それをベルファインという魔導士の青年が押さえたそうだ。

彼は闇魔法を葬り去った後、行き場のない人々を集めて国を作った。

それがベルファイン王国の建国の理由だった。


マグリットとイザックが初めて一緒に参加した盛大なパーティーもそのことを祝うためだった。

最近、メル侯爵からベルファイン王国の歴史を習っていた。

その色を隠すためにローブを被っているのだろうか。



「おいくらですか? これはどうやって食べるの?」


「…………」



マグリットは警戒されないように、普通の買い物をしているフリをしていた。

しかしミアとオリバーが言っていた通り、子どもは何も言葉を発することはない。

茶色のカゴはオリバーたちが持っていたものと同じ。

何か植物を乾燥させて編み込んでいるものだ。

微妙に形が違うところを見るにこれも手作りだろう。


そんな時、カサついた唇がわずかに動く。

何か言葉を発したような気がするが、声が小さくて聞き取れない。

聞き返したマグリットに子どもは再び呟くように言う。



『お金……ほしい』


「……!」



なんとか聞き取れた言葉にマグリットは、何故か大きな違和感を覚えた。


(……アレ、何かがおかしいような)


そう思ったものの、マグリットは子どもが話してくれたことが嬉しく感じた。

何故なら会話ができれば、この餅のことを聞けるからだ。

マグリットはすぐに言葉を返す。



『でも金額を聞かないと払えないわ』


『…………ッ!』



何故か大きく目を見開いた子を見て、マグリットは首を傾げた。



『どうかしたのかしら?』


『…………オレの言葉、わかる?』


『えぇ、もちろん』



マグリットがそう言うと、先ほどまで怯えていたような声や態度がパッと明るくなる。

黒い瞳に光が宿る。


(オレっていうことは男の子かしら。言葉がわかるって……どういうこと?)


その理由はわからなかったが、マグリットは逃げられてはいけないと慎重に言葉を選んでいく。



『これはどうやって食べればいいのかな? 食べ方を教えてくれる?』


『お前、来て欲しい。そこに行く!』


『…………え?』



立ち上がったのと同時に雨の中、走り出した少年は慣れた様子でカゴと木に立てかけていたオールを持ってからマグリットの手を取った。


少年はそのまま走り出してしまう。

マグリットも何が何だかわからずに手を引かれて走っていくが、あまりの速さに転びそうになってしまう。



「待って……! 待ってってば! 転んじゃう~!」



マグリットがそう叫んでも少年の足は止まらない。

この力の強さやゴツゴツとした手のひらは間違いなく男の子なのだろう。


市場の人混みをスルスルと抜けて、あっという間に海岸にとたどり着く。


きっとミアとオリバーに話しかけられた時も、こうしてすぐに逃げてしまったのだろう。

イザックとローガンも市場の人混みでどこにいるかわからない。

二人と合流しなければと、少年を引き止めるように声を上げる。



『ねぇ、君! ちょっと待って! わたしは……っ』


『すぐ行く。会わせる……必要!』


『行くってどこに? きゃっ……!』


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