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それから先ほどローガンと何があったのかに話は移る。
「リダ公爵は全身が氷漬けになりながらも優しく声をかけてくださいましたわ。それにわたくしの気持ちを跳ね除けることなく……受け入れてくださって」
マグリットは相槌を打ちながら、嬉しそうなフランソワーズの話を聞いていた。
「これが最後のチャンスだと思っておりました。後悔がないように想いを告げられて本当によかったですわ」
「フランソワーズ様、すごいです……!」
「一度、恥をかいたらもう何も怖くない。失うものは何もないと思ったら、ちゃんと気持ちを伝えられましたわ! 今日はぐっと前に進めた気がします」
マグリットはフランソワーズがここまでの行動力を発揮するとは思わずに驚いていた。
彼女の目はキラキラと輝いており、生き生きとしている。
人見知りでモジモジとしていた彼女は嘘のようだ。
「このままうまくいけたらいいですね!」
マグリットは前向きな発言をしたつもりだが、フランソワーズは静かに首を横に振る。
「リダ公爵はお優しい方ですわ。もしリダ公爵のお気持ちがわたくしになくても、結ばれなくてもそれでいいのです」
「……そんな」
「本当はマグリット様とガノングルフ辺境伯のようになれたら嬉しいですわ。ですが、リダ公爵の幸せが一番ですもの」
「…………!」
「リダ公爵には好きなことを続けて欲しい……魔法のことになると瞳がキラキラと輝いているんです。わたくしはそんなリダ公爵が大好きですから」
マグリットは本当の愛がどんなものなのかフランソワーズに教えてもらったような気がした。
彼女はローガンの幸せを一番に考えているのだろう。
そう思うとイザックもマグリットの幸せを考えて動いてくれていることが自然と理解できる。
(イザックさんは、こんな風に思ってくれているの……?)
今までふんわりとしていた気持ちが、くっきりと浮かび上がったような不思議な感覚だった。
マグリットもフランソワーズも互いに学びつつ、波乱のお茶会は終わった。
日が落ちる前に帰らなければと言うフランソワーズを、マグリットは最後まで手を振って見送っていた。
後ろから現れたのはイザックとローガンだった。
二人もフランソワーズを見送るつもりが、少し遅かったようだ。
「フランソワーズ嬢は僕のこと何か言っていたかい?」
ローガンは意外にもフランソワーズのことを気にしているようだ。
理由を聞くと、意外にもこうして女性に好意をまっすぐ向けられるのは初めてなのだという。
ローガンは明らかにフランソワーズを意識しているではないか。
「フフッ、それは内緒です! フランソワーズ様に直接聞いてください」
「えー……」
マグリットが勝ち誇ったようにそう言うと、ローガンは苦い表情だ。
それからマグリットはいつものようにミアと共に夕食の準備に取り掛かる。
ローガンがリクエストした味噌汁や魚の味噌煮を作り、皆でテーブルを囲んで食事をする。
食後にイザックの淹れてくれた珈琲を飲みながら、のんびりとしていた時だった。
一人で果実酒やワインを夕食の時から飲みまくっていたローガンがニヤニヤしながらこちらに近づいてくる。
酔っ払っているのだろうが、彼がマグリットに触れる前、イザックに後ろから抱きしめられた。
しかしローガンは諦めるつもりはないようだ。
彼はマグリットの耳元に唇を寄せてあることを口にする。
「ねぇねぇ、マグリット。イザックの昔の話……聞きたくない?」
「ローガン……!」
「是非、聞きたいですっ!」
「……マグリット!」
こうして賑やかな夜は過ぎていった。
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