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そこで言葉を止めたローガンだったがマグリットには何が言いたいのかわかってしまった。
この短時間でフランソワーズの気持ちに気付いてしまったのだろう。
マグリットはフランソワーズの気持ちを伝えていいのか迷ったが、ここまで本人がわかっているのなら大丈夫だと判断する。
マグリットが静かに頷いたことで、先ほどまでヘラヘラしていたローガンの表情が真剣になる。
「そう…………行ってくるよ」
ローガンは納得したように頷くと、すぐにフランソワーズを追いかけていった。
マグリットは二人の関係がうまくいくことを祈っていた。
三十分後、フランソワーズは何故かびしょ濡れになったローガンに連れられて戻ってきた。
二人の間を流れる空気はどことなく気まずいように思えた。
フランソワーズはずっと俯いていて表情がわからないが、冷気が漏れ出ているところを見るに話し合いはうまくいかなかったのかもしれない。
そんな雰囲気を察したのかイザックがローガンを着替えさせるためにその場を離れる。
マグリットは振り返ったイザックとアイコンタクトをとり頷く。
フランソワーズのひんやりと冷えた手を握り椅子に座るように促した。
「マグリット様、色々と申し訳ございません。迷惑ばかりかけて……もう、なんて謝ればいいか」
「わたしのことは気にしなくていいんです。それよりローガンさんとは……」
「…………そ、それが」
落ち込んでいるように見えたフランソワーズだったが、どうやらローガンとの距離は縮んだようだ。
てっきりフランソワーズの様子を見てうまくいかなかったのかもしれないと思っていたマグリットは驚くばかりだ。
「本当ですか!?」
「えぇ……今もまだ夢を見ているみたいなんです。まさかこんなことになるなんて。信じられない……」
フランソワーズはそう言って真っ赤になった頬を押さえた。
あの後、ローガンに引き止められて、やけくそになったフランソワーズは彼に想いを告げたのだと言う。
『リダ公爵と出会った時から今までずっと……ずっとお慕いしておりましたっ!』
ローガンが困惑していたそうだが、フランソワーズの気持ちを断ることはなかった。
今度フランソワーズが魔法研究所に通いながら、休憩時間に二人きりで話す約束ができたそうだ。
フランソワーズは照れつつも、嬉しそうにそう語った。
「魔法のことも解決しそうですわ。どうやら感情を押さえつけすぎたことや魔力も年々強まっていたことが理由みたいで……」
「……そんなことが」
「稀にあるのだそうです。それにリダ公爵だけですわ。わたくしが氷漬けにしても『いい氷だね』と、喜んでくださる方は……」
うっとりしながらローガンの話をするフランソワーズ。
彼女の感情が昂りすぎて氷漬けになったローガンが思い浮かぶ。
氷が溶けた影響でびしょ濡れだったのだろう。
こうなったとしても喜ぶのはローガンだとしか思えなかった。
「マグリット様のおかげですわ。本当にありがとうございます」
「わたしは何も……! フランソワーズ様が頑張ったからですよ」
「いいえ! マグリット様がこうして協力してくださり、きっかけを作ってくれたらこそですわ」
フランソワーズはローガンとの関係が発展したことを心から喜んでいた。
マグリットはきっかけになっただけで、特に何をしたわけではない。
彼女が勇気を出して踏み出したからこそ、この結果が得られたのだと思った。
「お礼を……そうだわ! カキゴオリを作る時はわたくしに任せてくださいませ」
「ほっ、本当ですか!?」
「それと氷が必要な際は、いつでもわたくしに言ってください。マグリット様のためなら協力いたしますわ」
「──ありがとうございますっ!」
マグリットはフランソワーズの提案が嬉しすぎて彼女に抱きついた。
フランソワーズも抱きしめ返すようにして腕を回す。
それからフランソワーズとマグリットは互いの恋の悩みを少しだけ相談していた。
「最近、イザック様が積極的な気がするんです……なんていうか、それが嬉しいような恥ずかしいような」
「まぁ……! うらやましいわ」
「それにこの間は自分以外の男性に触れないで欲しいと言われて……」
「そ、それはもしかして嫉妬というものでは!? わたくしも言われてみたいですわ!」
フランソワーズは興奮気味に顔を赤らめている。