122
「マグリット……?」
「あのっ……イザックさん」
イザックの熱のこもった視線を感じていたが、マグリットは震える唇を開く。
「……だ、だいすきです」
「…………!」
思った以上に、小さな声だったがイザックに気持ちに伝えることができた。
マグリットが満足していると、ふと顎と頬に硬くて大きな手のひらが添えられる。
なんだろうと思っていると、イザックに視線を向けた時だった。
唇に柔らかい感触……キスをしていると気付いたのは唇が離れた後だった。
驚きすぎて動けないでいるマグリットだったが、イザックの「嫌だったか?」という問いかけにゆっくりと首を横に振る。
なんとか口をパクパクと動かしていたが、結局はなにも言えないまま、マグリットはイザックにしがみつくようにして体を寄せた。
本来、お茶会だったらはしたない行動ではあるが、今はそんなことを気にしている余裕はない。
彼に抱きついたまま、顔を上げられそうになかった。
マグリットを包み込むように抱きしめたイザック。
肌から直接伝わる温もりと共に、今まで感じたことのない幸せを感じていた。
「……マグリット」と、名前を呼ばれたため、少しだけ顔を上げるとこちらをまっすぐ見つめるイザックの姿。
再び顔が近づいてきて、マグリットが瞼を閉じた時だった。
「ありゃ、お邪魔だったかな?」
「「…………ッ!?」」
マグリットが大きく肩を跳ねさせた。
イザックから勢いよく距離をとると、彼はある人物を睨みつけた。
「……ローガン」
イザックの不機嫌そうな声が響く。
またもやタイミングがいいのか悪いのか。
そこにはローガンの姿があった。
顔を真っ赤にして両手で覆ったフランソワーズが、ローガンの背後から顔を出したり引っ込めたりを繰り返している。
マグリットは慌ててイザックから距離を取ったため、かなり離れた場所にいた。
「いやぁ……見せつけてくるよねぇ」
「邪魔をするな」
「ごめんごめん、これでもフランソワーズ嬢を借りてしまったから、気を遣ったつもりなんだけどね」
そう言ったローガンは悪びれもなくヘラリと笑った。
「フランソワーズ嬢、僕たちも真似してみる? なんて冗談……」
ローガンがいつもの調子でそう言った時だった。
「おっ、お願いします……!」
フランソワーズは顔を真っ赤にしたままそう言い放つ。
随分と思いきった言葉であるが、マグリットとイザックに感化されてしまったのだろうか。
まさかこう返されると思わなかったローガンも返答に困っている。
「あー……えっと、冗談だよね?」
「──ッ!」
フランソワーズはローガンの反応を見て、冗談だったことに気付いたようだ。
目は潤んでいき、ドレスから出ているデコルテや肩などがマグリットでもわかるほどに真っ赤に染まっていく。
「ごっ、ご、ごめんなさいぃぃ……!」
フランソワーズはそのまま走り去ってしまった。
彼女の後ろ姿を見つめながら、イザックとマグリットはローガンをじっとりと睨みつける。
ローガンもさすがに思うところがあるのだろう。
「ものすごく反省しているから、二人ともそんな目で見ないで……」
「令嬢に恥をかかせるなんて、お前は落ちぶれたな」
「今の冗談はよくないと思います。最低です」
「うっ……! イザックはいつものことだとしてもマグリットに言われると心が痛いよ」
ローガンは苦い表情をしながら珍しく困った表情を見せた。
小さなため息を吐いた後にマグリットの名前を呼ぶ。
「ねぇ……マグリット」
「なんでしょうか」
「フランソワーズ嬢って、僕の気のせいじゃなければ……もしかして」