121
「イザックさん、ここはローガンさんに任せましょう」
「……だが、お茶会は」
そこでこうなった経緯を説明すると、彼は納得してくれたようだ。
「ですから、大丈夫なんですよ。フランソワーズ様たちが戻って来るまでわたしはここでのんびりと待っていますので」
「なら、フランソワーズ嬢が戻ってくるまで俺がここにいる」
「いいんですか?」
「ああ」
イザックの優しさに感謝しつつ、マグリットは席に着く。
なんだかドレスを着ているせいか、いつもと違う雰囲気だ。
イザックとこうして改まってお茶をしていると緊張してしまう。
彼はどんな格好をしていても様になるのは王族だからだろうか。
マグリットもイザックと共にいても恥ずかしくないようにと背筋を伸ばしてカップを持ち上げて、少しだけ冷めた紅茶を飲み込んだ。
するとイザックから視線を感じてマグリットは顔を上げる。
「イザックさん……?」
「マグリットはどんどん綺麗になるな」
「……わ、わたしがですか!?」
イザックは真剣な表情でマグリットを見ている。
急に褒められてマグリットは戸惑っていた。
なんて返せばいいか考えつつも、マグリットは返事をする。
「ありがとうございます……とても嬉しいですっ!」
「ああ、いつもの姿も可愛らしいがドレス姿も美しいな。見惚れてしまう」
「〜〜っ!?」
「そのドレス、マグリットによく似合っている」
まさかイザックがこうしてストレートに言葉を伝えてくるようになるとは思いもしなかった。
口下手で不器用なイザックはどこへ行ってしまったのか。
最近ではこうして言われると心臓が飛び出してしまいそうになる。
火照る頬を押さえつつもイザックをチラリと見る。
(……はっ、恥ずかしい!)
彼の真面目な性格を知っているため、本音なのだと思うとマグリットを何とも言えない気持ちにさせた。
だが、こうして想いを伝えてくれたからこそマグリットもイザックを異性として意識するようになったのだ。
ここでマグリットもイザックに対して思っていることを伝えてみることにした。
「わ、わたしもイザックさんのことを可愛いなって思ってましたからっ!」
「…………」
イザックは困惑した表情でこちらを見ている。
「もしかして俺は……マグリットにとって頼りない存在なのだろうか」
「ち、違います……! そういうことではなくてですね」
褒め慣れないせいか、マグリットが思っていることと違う意味で伝わってしまったようだ。
けれどこうして一緒に過ごしてみて、イザックの可愛らしい面やかっこいいところを見てきた。
懸命に言葉を探していたマグリットは、ある言葉が思いつく。
「イザックさんのことは……うーん、その……愛おしい、そうです! 愛おしいと思っています!」
ピッタリと当てはまる言葉が見つかってスッキリとしていた。
自信満々で言ったマグリットを見て、イザックも吹き出すように笑う。
「ははっ……!」
「イザックさん?」
「いや……マグリットらしいと思っただけだ」
なんだか気持ちが伝わったようで何よりである。
イザックがこちらに腕を伸ばして、マグリットの髪を一束掴んだ。
大きな手のひらでサラリと頭を撫でたイザックは優しい笑顔を見せてくれた。
「君は俺の太陽なんだ」
「……!」
「いつまでも輝いていてほしい」
マグリットは、イザックの笑顔に心を打ち抜かれていた。
キュンとする心臓にマグリットは思わず胸元を押さえる。
イザックのことは大好きだが、なんだか最近は心臓が忙しない。
だけどいまいち彼のようにうまく伝えることができなかった。
マグリットはイザックの腕に手のひらを這わすようにして触れた。