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「リダ公爵は魔法のことが大好きですから! それにわたしもリダ公爵の気持ちはよくわかるので大丈夫だと思えるんです」
「そうなのですか?」
「はい。わたしも料理の研究が大好きですから……!」
「たしかにマグリット様の食べ物への熱量はすごいですわね。リダ公爵も同じ……」
そう言うとフランソワーズは、覚悟を決めたように顔を上げた。
「わ、わたくし頑張ってみます! マグリット様、気絶しないように見ていてくださいませっ」
「フランソワーズ様、そうです! その勢いで頑張りましょう……!」
「何を頑張るんだい?」
「「……ッ!」」
フランソワーズと手を取り合っていたマグリットは振り返る。
そこにはニコニコと笑いながらこちらを見ているローガンの姿があった。
「気になったから来ちゃった!」
「「…………」」
可愛らしく言ってくるところがローガンらしいと言うべきだろうか。
やはりマグリットの予想通り、フランソワーズの魔法のことが気になって気になって仕方なかったようだ。
「おや、なんだか魔力の乱れが元に戻ってるけど……マグリットのおかげかな?」
「……えっと」
マグリットはフランソワーズをチラリと見る。
彼女はまた緊張して話せなくなってしまうかと思いきや、覚悟が決まったように勢いよく頭を下げた。
「リ、リダ公爵……先ほどは大変失礼いたしました!」
マグリットはフランソワーズの影に隠れて、彼女にエールを送る。
「わ、わたくし……感情と魔力のコントロールがうまくいかないことが増えていて、それで……あのっ」
「……なんだって?」
「どうか幻滅しないでくださいませっ!」
フランソワーズはドレスの裾を握りながら叫ぶようにそう言った。
するとローガンはフランソワーズの肩に手を置いた。
何故か満面の笑顔を浮かべている。
「もちろんだよ! 僕に任せて」
「……っ!」
「暇で暇で死にそうだったから、フランソワーズ嬢が来てくれて助かったよ。さぁ、さっそく原因を解明しようじゃないか!」
フランソワーズの顔が真っ赤に染まっていくが気絶はしていない。
一方、ローガンは心底から嬉しそうだ。
どうやらこの二日でやりたいことはすべてしてしまい暇を持て余していたようだ。
「ということでマグリット、お茶会は……」
「もちろん大丈夫です! フランソワーズ様のために是非っ!」
「そう? じゃあ遠慮なくやらせてもらおうかな」
マグリットがそう言うと、ローガンは機嫌良く笑った。
もっと広い場所まで移動するからと、フランソワーズをエスコートする。
彼女も照れつつもローガンの腕に触れていた。
フランソワーズの心の底から嬉しそうな顔を見ているとこちらまで幸せになる。
ローガンの腕がガチガチに凍っているように見えるが、あえて触れなくてもいいだろう。
(よかった……フランソワーズ様、嬉しそう)
二人の後ろ姿を見送りつつ、マグリットは清々しい気持ちで席に戻ろうとすると……。
「マグリット、一人で何を……」
「イザックさん!」
「フランソワーズ嬢はどこに?」
イザックは挨拶に来てくれたのだろうか。
しかしマグリットとお茶をしているはずのフランソワーズの姿がない。
不思議に思うのは無理はないだろう。
「フランソワーズ様は今からローガンさんに魔力の乱れを診てもらうそうです」
「……!」
険しい顔をしているイザックを見て、マグリットはローガンを咎めにいくのだと思った。
マグリットは慌ててイザックを引き止める。
今はフランソワーズのために二人きりにしてあげたいと思ったからだ。