119
二人でお茶会のテーブルに移動する。
オリバーが椅子を引いたため、マグリットも腰かけた。
しかしフランソワーズの表情は暗いままだ。
「……ごめんなさい、マグリット様」
「フランソワーズ様…………」
青白い顔をしているフランソワーズを心配していた。
なんとか彼女を元気づけようとするものの、なかなかうまくいかない。
「こんな魔法……なくなってしまえばいいのに」
フランソワーズの言葉を聞いてマグリットは勢いよく立ち上がる。
テーブルにあるティーカップやソーサーがガチャリと音を立てた。
「そんなこと言わないでください! フランソワーズ様の魔法は希望の塊です。フランソワーズ様の力でかき氷もアイスクリームもできるんですよ!?」
「……カキゴオリ?」
「街で買ったフルーツでシロップを作るんです! それを削った氷を食べるんですよ。甘くて冷たくて口の中でフワッと消えていく素晴らしい食材で……ハッ!」
マグリットはつい、興奮してしまいずっと思っていたことを口にしてしまう。
フランソワーズの氷魔法のことを聞いた瞬間からマグリットは思っていたのだ。
冷たいかき氷が食べたい、と。
こちらは氷魔法を使わなければ、食料の保存が大変だ。
だからこそ魚や肉などは干されていて、保存できるようにして売られていた。
だが氷があれば、魚を冷やしながら運ぶことができる。
こんなにありがたいことはない。
マグリットが口元を押さえると、フランソワーズがプルプルと体を震わせていることに気づく。
「まさか、わたくしの魔法を食べ物にしようとするなんて……っ」
マグリットはフランソワーズの反応を見て反省していた。
(我慢していたのに……つい! フランソワーズ様に嫌われてしまったのかしら)
マグリットがどうフォローしようと考えていた時だった。
「ふっ……あはは!」
「……!」
吹き出すように笑ったフランソワーズは口元を押さえている。
どうやら先ほど震えていたのは、笑うのを堪えていたからのようだ。
「わたくしの氷魔法を削って甘いシロップをかけて食べようとするなんて……ふふっ、信じられない!」
「そうでしょうか?」
「えぇ、食糧の保管に使ったり、涼んだり、冷たい飲み物を飲んだりするために使うことはあるけれど……そのまま削って味つけて食べるのね」
「はい! ひんやりとしていて美味しいんです」
フランソワーズが笑ったことで、周りの冷気も消えていく。
マグリットも安心から息を吐き出した。
それから『かき氷』について熱く語っていた。
フランソワーズは「わたくしも食べでみたいわ」と言ってくれた。
彼女の気分が上向きになったことでマグリットは安心していた。
そして話は自然とローガンのことへと移る。
「リダ公爵は怒っていないでしょうか。手を……あんな風に弾いてしまうなんて」
「怒ってはいないと思いますが……」
ものすごく気になってはいるだろうな、と言いかけてマグリットは唇を閉じる。
「きっとリダ公爵はわたくしに幻滅なさったでしょうね。この歳になって感情と魔力のコントロールができていないなんて知られたのだから……わたくしはどうしたらっ」
「フランソワーズ様は魔力コントロールが苦手なのですか?」
「いえ……。だけど最近になってまた力が大きくなっているような気がしていて……お母様たちはリダ公爵に相談した方がいいと言われたけれど、なかなか話しかけられなくて……今日まで」
フランソワーズはローガンが好きだからこそ、彼によく見られたいと思っているようだ。
ローガンもフランソワーズに幻滅することなく心配している……と、いうよりは調べたくて仕方ないといった感じだ。
「ですが、正直にフランソワーズ様の魔法のことを話した方がいいと思います」
「え……?」