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激しく落ち込むオリバーを見て困惑するローガン。
イザックがショウユが消えた経緯について簡単に説明すると、ローガンは「なるほどねぇ」と納得した様子を見せた。
オリバーの顔色はどんどん悪くなっていく。
「オリバー、もう終わったことよ。大丈夫だから気にしないで」
「マグリット様、すみません……本当にごめんなさい」
あの一件はトラウマになっていて、たまに悪夢として魘されるそうだ。
何をするにもマグリットに確認するようになったオリバー。
彼を励ましつつ、朝食が終わりマグリットはフランソワーズを出迎えるために準備をしていた。
ミアがマグリットのオレンジブラウンの髪を綺麗にまとめてくれている。
「朝食の時はオリバーが申し訳ありませんでした」
「いいのよミア、それよりもオリバーを怒らないであげてね」
「無理です」
「ミア……」
「本来なら解雇でもおかしくありません。オリバーはマグリット様の温情でここにいるのですから」
「大袈裟よ」
「いいえ、オリバーは今回の件を死ぬほど反省すべきです」
朝食の後も、オリバーはミアに叱られたのだろう。
「マグリット様はオリバーに甘いのです」
「でもオリバーのおかげでお餅が見つかったのよ? それにお米が見つかったらオリバーは恩人よ!」
マグリットの力強い言葉にミアは小さくため息を吐いた。
そして小さな声ではあるが「ありがとうございます」と聞こえた。
ミアもオリバーに対しては厳しいが、彼のことを大切に思っているのは知っていた。
それを素直に口に出せないだけだ。
安心したようなミアと鏡越しに目が合った。
マグリットがにこやかに笑っていると、ミアはごまかすように咳払いをして手を動かしていく。
イザックに贈られた中で一番のお気に入りのドレスを選ぶ。
明るいグリーンの生地の落ち着いたデザインを見ていると、イザックのオリーブベージュの髪とエメラルドグリーンの瞳を思い出す。
髪飾りをつけ終わり、全身鏡で最終確認をしているとオリバーがフランソワーズの到着を知らせてくれた。
マグリットは早足で玄関へと向かう。
扉が開くと、そこにはフランソワーズの姿があった。
「ようこそ、フランソワーズ様……!」
「マグリット様、本日はお招きいただきありがとうございます」
ロイヤルブルーの髪はキッチリとまとめられている。
アクアマリンの瞳は涼やかで氷姫の名前に相応しい。
パステルブルーのドレスはフリルが使われており、上品だが可愛らしい。
作り者かモノのように美しい彼女に自然と目を奪われてしまう。
「綺麗……」
「……!」
思わず呟いてしまった言葉に、フランソワーズは驚いている。
彼女は照れたように視線を逸らした後に、薄桃色の薄い唇を開いた。
「マグリット様も、とても可愛らしいですわ……妖精のよう」
「あ、ありがとうございます。行きましょう。中庭にお茶の準備をしていますので」
「……はい」
フランソワーズとマグリットは互いに照れ合いつつも、中庭に移動する。
すると中庭のベンチに本を開いて顔に置いて、横になっているローガンの姿があった。
マグリットはフランソワーズの耳元でこっそりと耳打ちする。
「フランソワーズ様、ローガンさんに話しかけるチャンスですよ?」
「ふぐぅっ!」
「……!?」
マグリットがそう言うと、フランソワーズが奇声を発して体を硬直させる。
プルプルと震えるフランソワーズの手のひらがマグリットの腕をがっしりと掴んだ。
汗ばんだ手のひらはひんやりと冷たくて、体から冷気が漏れ出ているではないか。
荒く肩を吐き出しながら、目を剥くフランソワーズはホラー映画に出てきそうなほどに恐ろしい。
このままではローガンは驚いてしまうだろう。
こんなに着飾って美しいのにもったいない気がした。