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「ここは……?」
「小さな無人島だ。うちが管理している領土ではあるが……」
マグリットはイザックの言葉を待っていた。
眉を寄せて苦い表情をしている。
「俺はあまり関与したことはない。今まで……屋敷から出たことがなかったからな」
だけどこの方向に船は向かったとするならば、考えられるのは一つだ。
「イザックさん、ここには人が住んでいるのでしょうか?」
マグリットの問いかけにイザックは首を捻る。
人が住んでいるかどうかすらわからない島。
そんな時、ミアが「失礼します」と言って口を開く。
「その子が乗っていたのは人が二人乗れるほどの小さな船です。距離的にもこの島で間違いないのではないでしょうか?」
ミアの言葉にマグリットは目を輝かせた。
この島に求め続けたものがあるかもしれない、そう思ったからだ。
「もしかしてここに稲があるかもしれない……!」
「イネ……?」
「えっと、お餅の元になるものなんです。どこかの商人に聞いたことがあるような、ないような……」
「「「「…………」」」」
「と、とにかくこの島に行けば、すべて明らかになりますね!」
マグリットは問われる前に先に予防線を張っていく。
この島はベルファイン王国のガノングルフ辺境伯領の一部だとわかった。
それだけでも大きな進歩だろう。
もし隣国の島だったら簡単に立ち入ることすらできなかったのだから。
「ミア、次の市場はいつだ?」
「五日後です」
「そうか……なら、その日に」
「僕も見たい!」
「休みは一週間だぞ? その頃には王都に……」
「細かいことは気にしなくていいから。どうにかなるでしょう!」
ローガンはあんなに王都に帰りたがっていたのに、あっさり手のひらを返す。
あんなにも仕事にしがみついていたことが嘘のようだ。
どうやらローガンの中で好奇心が優っているらしい。
イザックは「手紙だけは必ず送っておけよ」と言っている。
彼もローガンの性格を知ってか諦めているようだ。
ローガンは両手を挙げて、その場を駆け回りながら喜んでいる。
(もち米があったら、もしかしたらうるち米も……! 米が手に入ったらどうしましょう!)
マグリットも期待に胸を膨らませて、その場で足踏みを繰り返す。
やりたいことを頭の中で考えていた。
「米麹が手に入ったら何ができるの? 新しい味噌が作れるわ。それから米酢に甘酒、塩麹だって作れちゃうかもしれないってことよね。塩麹は肉にも魚にも作れるということ!? そうしたらまた料理の幅が広がるじゃない……! 甘酒なんて飲めたら……くっ! もうたまらないわ。米酢は一カ月から三カ月でできる。酢の物も作れるなんて夢みたい……! あとお寿司! 生で食べられてお米に合う魚を本格的に見つけないとだめね。またイザックさんと調整しながら作れるのかもしれないわ!」
「マグリット、落ち着いてくれ」
「あっ……」
マグリットは口元を押さえた。
ついつい心の声が表に出てしまっていたようだ。
お米が手に入るかもしれない……そう思うと妄想が止まらない。
最近、書き込んでいなかったノートには、今では米で作れる塩麹で作る炒め物やチャーハン、寿司にオムライスなど次々にアイディアが沸いていた。
マグリットは皆の前で気持ちが昂ったことを反省しつつ、息を吐き出す。
皆の視線が痛いが、マグリットは笑顔で誤魔化していた。
「五日後の市場が楽しみですね……!」
「「「「…………」」」」
もう一度、市場に来るかはわからないが、マグリットは今度こそその子に会うと気合い十分だった。
それに身なりからしてお金を欲して餅を売りに来ているのではないかと結論に至る。
それからローガンの連れ去り作戦が成功したため、フランソワーズとあの約束を果たすことができる。
(フランソワーズ様、喜ぶかしら……!)
マグリットはフランソワーズの気持ちを応援したいと思っていた。