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マグリットは増えた餅を見つめながら目を輝かせていた。
ワクワクした気持ちでオリバーの言葉を待っていたが、オリバーはゆっくりとミアに視線を送る。
もしかしたら何かあったのかもしれない。
(どっ、どういうこと……!? もしかして、もしかするのかしら……)
マグリットは嫌な予感を感じつつも、オリバーに問いかける。
「これを売っている人は、どんな子だったのかしら?」
「えっとですね……」
「マグリット様、私が説明します」
真剣な表情のミアがオリバーの前に。
今回はオリバーと共にミアが一緒に市場に行ったのだ。
マグリットはゴクリと唾を飲み込んだ。
「まず、あの日も市場に行こうとするといつものように雨が降っていました」
「……またなの?」
「えぇ、マグリット様が言っていたので意識していたのですが間違いなく、市場が開かれる少し前からです」
毎週、同じ時間に雨が降るという違和感を覚えていた。
何が原因なのか三人で首を捻っていると、そこにタイミングよく地図を持ったイザックとローガンが顔を出す。
ローガンは決まった時間に雨が降るという話を聞いていたのだろう。
「もしかして、マグリットと同じ力だったりしない?」
「ローガンさん……!」
「マグリットとは逆……つまり雨を降らせる力じゃないかな?」
マグリットはローガンにそう言われるとなんだかしっくりきてしまう。
(青空にしてしまうわたしと違って、今度は雨を降らせる力……そんなことあり得るのかしら)
それはマグリットも思っていたことだった。
もしかしたら……そんな考えが頭を過ったが、確信が持てなかった。
しかしローガンがそう言うと、なんとなく現実味が帯びてくる。
「そうなると……やはりベルファイン王国の人間なのか?」
「その可能性は高いかなぁ。もしかしたら魔法を使えないと判断された貴族の子どもなのかもね……自分が魔法を使っていることすらわからない」
イザックもベルファイン王国の人間かもしれないという事実に食いついている。
いろんなパターンが考えられるが、まだその子に話を聞いていなければわからない。
自然とミアとオリバーに視線が集まっていく。
オリバーはミアに肘でつついて何かをアピールしている。
ミアは咳払いをするとこちらを見据えた。
「結論から言うと……逃げられました」
「……逃げる? どうして?」
ミアの言葉を聞いてマグリットは首を傾げた。
「わかりません。オリバーを待機させてオモチを買った後に何個か質問したのです。もちろん笑顔で。ですが何も答えることなく、そのまま雨の中でオールを持って走り出してしまいました」
悪いことをしていると思っているのだろうか。
その後に追いかけて何度か話しかけてみるものの、答えてはくれなかったそうだ。
聞き取れない言葉を発していたようだが、結局のところ、何もわからないまま。
ミアは申し訳なさそうにしている。
「オリバーに荷物を預けて追いかけたのですが、すぐに海に行ってボートを漕ぎ出したんです」
「……え?」
そのままローブを被った子どもは船を漕いで行き、船で消えていったのだそう。
だが、風でローブが外れて顔は見えたらしい。
「髪色はグレーで肩ほどの長さ。手足の細さも気になりました。顔は中性的で性別の判別はできませんでした」
「ミア、ありがとう」
「お役に立てずに申し訳ありません」
ミアは深々と頭を下げているが、彼女のおかげで明らかになった部分も多い。
(このお餅はどこで作られているのかしら……まさか、海の向こうで?)