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マグリットだって恋愛面は初めてのことばかりで戸惑っている。
けれどイザックのために何かできることはないかと考えていた。
そして少しでもイザックの不安が和らげばいいと思い、彼を抱きしめる。
「あの……イザックさんが悲しい気持ちにならないために、わたしに何かできることはありますか?」
「……マグリット」
イザックもマグリットを強く抱きしめる。
強張っていた腕が柔らいでいくのを見て、マグリットは安心していた。
マグリットはこれからどうすればいいのかを考えていた。
(どうすればイザックさんに、わたしの気持ちが伝わるんだろう……)
イザックにはマグリットが好きだと伝えるだけでは足りないのだろう。
そもそも二人の『好き』の重さが噛み合っていないことも、なんとなく気がついていた。
けれど今のマグリットにはどうすることもできない。
マグリットは体を離すと、イザックの片方の手を掴む。
胸元にイザックの手の置いて目を閉じた。
心臓のドクドクと脈打つ音がここまで聞こえてくる。
マグリットがゆっくり瞼を開くと、イザックのエメラルドグリーンの瞳が左右に揺れているのが見えた。
「わたしはイザックさんとずっと一緒にいたい……そう思っています」
「……!」
「だから、心配しなくても大丈夫ですっ!」
マグリットは今、自分が精一杯できることでイザックに気持ちを伝えることを選んだ。
これでマグリットはイザックが少しでも安心してくれたらと思っていたのだが……。
「マグリット、今のは逆効果だ」
「……えっ!?」
「君のことをもっと好きになってしまう。独り占めにしたいんだ」
マグリットを見つめるイザックの瞳に熱がこもっているように思えた。
どうやらイザックにとっては逆効果になってしまったようだ。
(ど、どうすれば……!)
マグリットがどうすればいいか困惑していると、オリバーが見覚えのある茶色のカゴを持っているのが見えた。
マグリットの意識はすぐにオリバーのカゴに集中してしまう。
(も、もしかして……あの中に入っているのってお餅!? オリバーはまたお餅を買うことができて、お米の情報を聞けたということっ!?)
マグリットの頭の中にはグルグルとお餅と米のことがグルグルと駆け巡り浮かんでいた。
イザックと餅を交互に見ていた。
(お餅の件はどうなったのかしら……! 今すぐに聞きたい、今すぐ知りたいっ)
マグリットの視線の先に気がついたのか、イザックの体がそっと離れる。
「マグリット、モチが気になるのだろう? オリバーに話を聞いてくるといい」
「でも……いいんですか?」
マグリットが確認するように問いかけると、イザックは大きく頷いた。
「俺は地図を持ってから向かう。マグリットは先に行ってくれ」
「はい、ありがとうございますっ!」
イザックの元を離れたマグリットは、すごい速さでオリバーの元へと向かった。
オリバーが茶色のカゴを両手に持って、マグリットを見ると笑みを浮かべながら手を振っている。
「オリバー、話を聞かせて!」
「マグリット様……!」