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マグリットをまっすぐに見つめながら手を握るイザック。
ローガンの顔がこれでもかと歪んでいく。
これ以上、ローガンの女性のタイプを聞けばイザックが不機嫌になってしまう。
少しはフランソワーズの役に立とうと思ったが失敗してしまったようだ。
彼女の気持ちが報われてほしいと思うのは、変わろうと頑張って行動している姿を見たからだろうか。
(ローガンさんがガノングルフ辺境伯領に滞在中にチャンスがあるかもしれない……!)
そう思いつつ、彼女が長年の想い人であるローガンを前にして話せるのかが疑問だった。
(絶対に大丈夫……じゃないわよね。フランソワーズ様、ローガンさんの前でどうなってしまうのかしら)
マグリットと話すのにも息絶え絶えなのに、ローガンを前にしたら気絶してしまいそうだ。
マグリットが考えていると、ローガンが真剣な表情で口を開いた。
「真面目に話すと僕のタイプはね、基本的には大人しくてツンとした感じの子が好きかな。でも中身はギャップがあって人見知りだったりオドオドしたら最高だよね。ギャップが面白いと思わない? それから魔法の力も強いといいなぁ……」
「え……?」
「それに一途だったりなんかしたら文句ないんだけどね。もちろん仕事優先でも怒らない女の子……なんていないんだよなぁ」
急にタイプを語り出したローガンにマグリットは驚いていた。
どうやら先ほど遮られたことが不服だったようだ。
それからローガンが語るタイプを聞いて、マグリットは自然とフランソワーズのことを思い出す。
(もしかしてローガンさん、フランソワーズ様のことを気づいているの……? そんなわけないわよね)
偶然にしてはできすぎているではないだろうか。
ローガンはわざとフランソワーズのことを言っているのではないかと疑っていた。
「まぁ……こんなのはただの理想なんだけどね」
「……!」
ローガンに揶揄われている場合もあるかもしれないと疑っていたマグリットは彼を注意深く観察していた。
「あっ、やっぱり変わってるよね。そんなご令嬢は絶対にいないって言われるんだけど、性格的に妥協できなくてここまできちゃったんだよねぇ……」
マグリットはローガンがフランソワーズのことを言っているわけではないと気づいて驚愕していた。
イザックとローガンは目を見開いているマグリットを見て首を傾げている。
「……マグリット、大丈夫か?」
「はっ、はい!」
マグリットは二人の視線を感じてハッとする。
「そんなに引かなくてもいいじゃんか! マグリットがタイプをって言うから答えたのにさ」
イザックは心配そうにマグリットを見ているし、ローガンはマグリットが特殊な好みを聞いて軽蔑していると思っている。
だが、マグリットはあまりにも奇跡的なマッチングに驚いていただけだ。
「違うんです! そのっ……ぐぅっ……!」
フランソワーズのことを言いかけて、耐えるように唇を噛む。
ここでマグリットがローガンに勝手に気持ちを伝えるわけにはいかないからだ。
マグリットを見て不思議そうな二人に「なんでもありません!」と伝えた。
それから話題を変えるために、マグリットは馬車の中でイザックとローガンの出会いについて聞いていた。
ローガンは魔力の流れが見える特殊な能力を持っているそうだ。
当時、リダ公爵家でそのようなよくわからない魔法を使うことになったため、随分と肩身の思いをしていたらしい。
そんな気持ちがわかるからこそ、ローガンは魔法の力がわからない子どもたちを熱心に保護しているのだろう。
そして『腐敗魔法』という特殊な力を持つイザックと友人になるために外に出されたそうだ。
「父は僕ならいなくなってもいいと思ったんだろうね。それにもし友人になれたら万々歳。どっちに転んでもいい捨て駒だったんだ」
「……」
「……そんな」
「けれど僕は圧倒的な力を持つイザックをすぐに好きになった。羨ましいという感情に近かったのかもしれないね」