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「──マグリット様、是非とも歳上の男性の落とし方を教えてくださいませっ!」
「……っ!?」
「もうわたくしには時間がありません。これが……最後のチャンスなのです」
フランソワーズは寂しげな表情で呟いた。
恐らく年齢的にも時期が迫っていると言いたいのだろう。
修道院に行くと言って今まで逃げてきたが、自分の気持ちに整理をつけて、メル侯爵家のために、両親のために家のためになるところに嫁がなければと思っているそうだ。
そのために覚悟を決めてフランソワーズはマグリットに話しかけていたそうだ。
「王家主催のパーティーで、イザック様やご自分のために戦うマグリット様はとてもかっこよくて輝いて見えましたわ」
「……フランソワーズ様」
「自分の言いたいことをハッキリと言えるのは素晴らしいことですから。わたくしなんて今まで全然……っ」
フランソワーズは悔しそうに唇を噛んでいる。
今までローガンとのことがうまくいかなかったのかもしれない。
マグリットは落ち込むフランソワーズの手を握った。
「フランソワーズ様、今はわたしにこうして気持ちを話してくれているじゃありませんか」
「……で、ですが」
「フランソワーズ様、諦めるには早すぎます。チャンスは自分で動かなければ掴めません! 今すぐにでもリダ公爵にアピールしましょう」
「はっ、はい……!」
マグリットの力強い言葉につられたのか、勢いよく頷いている。
このタイミングでフランソワーズが気持ちを話してくれてよかったと思っていた。
フランソワーズもこのお茶会のために来ていたため、明日にはメル侯爵領に帰るそうだ。
マグリットはその話を聞いてあることを思いつく。
「フランソワーズ様、来週はお時間ありますか? もし時間があるようでしたらガノングルフ辺境伯領に来ませんか?」
「わ、わたくしがですか?」
「はい。まだ内緒なのですが、一週間ほどリダ公爵をガノングルフ辺境伯領に連れ去るんですよ」
「………………はい?」
フランソワーズはマグリットの言葉を聞き返すように耳に手を置いた。
「フランソワーズ様、これはリダ公爵に近づくための大大大チャンスですよ!」
「……ッ!」
マグリットは〝連れ去る〟という言葉に戸惑うフランソワーズを気にせずに話を進めていく。
「…………あの、マグリット様」
「もしかして来週は忙しいでしょうか?」
「そうではなく……」
「明後日には決行するんです!」
「……そ、そうなのですね」
マグリットの勢いにフランソワーズは頷くしかなかったようだ。
お茶会も終わりなのか、王妃の挨拶の声が響く。
「フランソワーズ様、行きましょう!」
「はい、マグリット様」
マグリットはフランソワーズと共に会場へと戻る。
するとフランソワーズの表情は先ほどとはまったく違い、ツンとしたものに戻っており驚いていた。
先ほどの可愛らしい姿は一切見せないのは氷姫という名前に相応しい。
「……では、失礼いたします。マグリット様」
「えっと……あの、はい」
マグリットはあまりの変化についていけなかったが、フランソワーズの指はプルプルと小さく震えている。
(フランソワーズ様、やっぱり人前で緊張しているだけなのね)
マグリットはこうしてフランソワーズの一面に気づいたからこそ、わかる変化なのかもしれない。
令嬢たちはマグリットとフランソワーズが一緒にいたことを不思議に思っているようだ。
周囲から視線を感じていたが、フランソワーズは涼やかに去って行く。
(フランソワーズ様と親しくなれた。すごく嬉しいわ……!)
新しい友人ができたことに、喜びつつマグリットは無事、お茶会を終えたのだった。