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「フランソワーズ様、わたしも令嬢のお友達が少ないので嬉しいです!」
「……っ」
「是非、友達になってください!」
マグリットは笑顔でフランソワーズの前に手を出す。
するとフランソワーズも震えながら手を伸ばした。
彼女の手を握ると、びっくりするほどに湿っている。
これだけでもフランソワーズがどれだけがんばったのかが伝わるような気がした。
しかしフランソワーズも自分の手のひらが汗で濡れていることに気がついたのだろう。
慌てて手を離して振り払ったような形になり、さらに慌てている。
けれど突然、ピタリと動きを止めて動けなくなってしまった。
どうやら彼女の中で何かの限界を超えてしまったらしい。
目を見開いて何も言わなくなってしまったフランソワーズを見ていると、普通ならば混乱してしまうだろう。
前世で定食屋を営んでいたからか、今まで色々な人を見てきたためマグリットにとっては特に気にするほどのことではない。
(極度の人見知りだった佐々木さんを思い出すわ。まともに会話できるようになるまで一年もかかったんだっけ。わたしは大丈夫だけど……貴族社会だと大変そう)
だからこそフランソワーズは普段は淡々とした態度で自分を隠しながら対応しているのかもしれない。
マグリットはそんなフランソワーズが頑張ってくれたことが単純に嬉しく思えた。
その後、お茶会が終わるまでフランソワーズとゆっくりとコミュニケーションをとって過ごしていた。
両親には心配かけないようにと、クールに対応していることで大きく誤解されているようだ。
「ですが、フランソワーズ様が婚約者を作らないのは何か理由があるのですか」
「……え?」
「メル侯爵夫人から話を聞きました。ギルバート殿下の婚約者候補の座からも降りたと……」
「…………」
「もし言いたくなかったら大丈夫です! 余計なお世話だったらすみません」
マグリットはついつい余計なことを聞いてしまったのかと思い、慌てて口を閉じる。
けれどフランソワーズはゆっくりと首を横に振る。
「そんなことありません。わたくしがお母様たちに……心配をかけていることは、わかっているんです。ですが彼のことを、どうしても諦めきれなくて……」
フランソワーズはそう言って頬を赤らめた。
マグリットはあることを悟る。
(フランソワーズ様は誰かに恋をしているんだわ……!)
マグリットは興奮を隠すように口元を押さえていた。
「そこでマグリット様にアドッ、アドバイスをいただけないかと思ったのです! も、もちろんマグリット様を利用しようだなんで微塵も思っておりませんからっ」
フランソワーズは手をブンブンと横に振りながらアピールしている。
マグリットは彼女を落ち着かせつつ、話を聞いていた。
けれどフランソワーズの期待を裏切ってしまうのだが、マグリットは恋愛経験がまったくない。
フランソワーズの役には立てそうにはなかった。
最近、やっとマグリットとイザックも恋人らしい雰囲気になっていった。
それを告げるためにマグリットは口を開く。
「フランソワーズ様、わたしも恋愛のことでアドバイスできることはあんまりなくて……」
「いえ……! マグリット様にしか答えられませんわ」
「……?」
マグリットがどういうことだろうと考えていると、フランソワーズはあることを呟く。
「わたくしが好きなのは……リ、リダ公爵なんです!」
「リダ公爵って…………えっ!?」
「わたくし、幼い頃からずっとお慕いしているんです」
マグリットは驚いていた。
フランソワーズの想い人は予想もしない人物だったからだ。
だから王太子の婚約者も断ったし、今まで婚約も断ってきたのだろう。
それにマグリットを利用したくて近づいたわけではないと言った理由もわかってしまった。