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「フランソワーズ様、わたしはいつまでも待ちますから大丈夫ですよ!」
「……っ!」
マグリットの言葉に驚いたように目を見開いたフランソワーズだったが小さく頷いたのがわかった。
どうやらマグリットの予想は当たりそうだ。
彼女は安心したのか、胸元に手のひらを当ててゆっくりと深呼吸をしている。
ポソリと「フランソワーズ、いくのよ!」と自分を励ますような声が聞こえた。
そんな可愛らしい姿を見ていると先ほどまで緊張していたが、ゆったりとした気持ちで待てそうだ。
(フランソワーズ様に嫌われているのかもと思ったけど、そうではないということよね)
マグリットはホッと息を吐き出した。
「マ、マグリット様、リダ公爵とは…………親しいのでしょうか?」
「リダ公爵……?」
マグリットはローガンの顔を思い浮かべた。
イザックと友人ということもあるが、彼は魔法のことを教わっている。
親しいのかと言われると、友人ではないので適切ではないがよくしてもらっている。
「はい。魔法研究所で魔力コントロールを教えてもらいますし、イザック様とリダ公爵は親しいのでよくしてもらっています」
「……そ、そう! そうですわよねっ」
フランソワーズは艶やかなロイヤルブルーの髪を両手でまとめつつ触れながら、何度も何度も頷いている。
そわそわと忙しなく動くフランソワーズが何を考えているかまではわからない。
けれどこのタイミングでローガンの名前が出るということは、フランソワーズはあの時、彼に用事があったのだろうか。
「フランソワーズ様はリダ公爵に用事があったのでしょうか?」
「…………いえ」
マグリットがそう問いかけるとフランソワーズの表情が一気に曇ってしまう。
震える唇が開いたかと思いきや、キュッと閉じられてしまう。
彼女は胸の前で人差し指を突きながらチラリとマグリットを見ている。
「フランソワーズ様、どうしましたか?」
「わ、わたくしは……」
潤んだ瞳に見つめられると、同性のマグリットでもドキドキとしてしまう。
フランソワーズのクールな外見とは裏腹に可愛さに気づいてしまったからだ。
「……ぃ……に」
「え……?」
「ともだちに……なっていただけませんか?」
「わたしとですか?」
マグリットが聞き返すとフランソワーズは何度も小さく頷いている。
ローガンの話はもういいのかと戸惑っていたが、再びフランソワーズの言葉を待っていると……。
「お母様から、マグリット様のことをよく話で聞いていました」
「え……?」
「とても明るくて、前向きで可愛らしい方だと……本当にその通りですわ」
フランソワーズは先ほどよりも少しだけ饒舌になる。
「わたくし、見た目と中身が……噛み合わなくて、よく勘違いされてしまいますの。もし…………怖がらせたら申し訳ありません」
フランソワーズがそう説明した途端、近くにいた令嬢たちが、こちらを見ながら何かをコソコソ話して去って行ってしまう。
「いつもそうなの……喋るのが下手で緊張してしまうから」
「……フランソワーズ様」
「慣れたら、平気なのだけど……」
フランソワーズは無表情ではあるが、落ち込んでいるようにも見える。
「わたくしと真逆なあなたのそばにいたら……変われるかもしれないと思って……なので」
フランソワーズは一生懸命、言葉を紡いでいる。
マグリットに手紙を送ろうとしたものの『急に手紙を送ったら怪しまれるかもしれない』『もう少し内容を変えた方がいいのかも……』と考えているうちに何ヵ月も経ってしまったらしい。
そんな消極的な性格を隠すように、自分を偽ってきたもののマグリットの優しい態度を見てポロリと本音が出てしまったようだ。