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──ここはベルファイン王国
この国に住む貴族達は、偉大な魔導士ベルファインの血を引いており魔法を使うことができる。
しかしネファーシャル子爵家に生まれたマグリットは魔法の力に恵まれず、ずっと家族に虐げられて育ってきた。
オレンジブラウンの髪とヘーゼルの瞳は家族の誰にも似ておらず、それも疎まれる原因となる。
十六歳になった今も社交界デビューどころかお茶会にすら出席したこともない。
代わりに十八歳になる姉のアデルは両親に愛されて育つ。
明るくてよく笑い、彼女はマグリットにとっては眩しい存在だった。
アデルはハニーゴールドの髪と珍しいバイオレットの瞳を持っている人形のように美しい令嬢だ。
そしてアデルの魔法はベルファイン王国ではじめての『防壁魔法』という、それはそれは珍しいものだった。
自分の身を守るように防壁を張る。
小さい壁しか張れずとも幼い頃からアデルは注目の的だ。
城から派遣された魔法研究所の職員たちもアデルの機嫌を損ねないようにしていたため、彼女の振る舞いはまるで王女のようだった。
両親も魔法の力が強いわけではなく、一般的な水魔法と風魔法が使える。
そんな中、珍しい魔法を持ったアデルは希望だった。
両親はアデルを『特別な子』『神様からの贈り物』として褒め称えるのと同時に彼女を甘やかした。
実際にアデルの魔法の力がわかってからネファーシャル子爵家にはいいことばかり起こる。
ネファーシャル子爵領は雨が降りやすく、作物が育ちづらい土地で年に何度も土砂災害や洪水が起こっていた。
しかしアデルのおかげかは定かではないが毎日空は晴れ渡り十六年間も大きな災害はない。
特別な魔法属性を持つ子供は何かと優遇されることも多く、令嬢であれば王家に迎え入れられることも少なくはない。
王家には二人の王子がいた。
アデルの美貌を含めて王子に選ばれることも大いにあるだろうと両親は自慢げに語った。
アデルは手を掛けられて育てられ、いるだけで太陽のようにその場が明るくなる。
しかし両親から過保護に育てられていたアデルは騙されやすく世間知らずな一面もあった。
一方、マグリットは『残りカス』と呼ばれていた。
両親はマグリットを自分たちの子供としてではなく使用人として育てていた。
力のないマグリットを自分たちの娘だと認めたくなかったのだろう。
姉妹にもかかわらず天国と地獄のような扱いを見て周囲はどう思うのか。
二人の違いを見てマグリットに同情していたように思う。
自分がマグリットの立場だったら、そう考えるだけでゾッとするだろう。
今日もマグリットは誰よりも早く起きて屋敷の床を拭いていた。
畑から野菜を収穫して朝食を作るのもマグリットの仕事だ。
そうやってシェフや従者、庭師や侍女たちの雇う人数を減らして浮いたお金でアデルを着飾り、王家に媚を売って、なんとか王子たちの婚約者に押し上げようとしていた。
そのためマグリットはシェフや従者、庭師や侍女たちの代わりに朝から晩まで働き通しである。
身なりを気遣う余裕もなく髪は伸びっぱなしで簡単にまとめているだけ。
掃除に洗濯、料理や買い出しといつも忙しなく動いている。
今日も街に買い物に出て、昼ご飯や夕ご飯の材料を買っていた。
「おじさん、卵をください！」
「はいよ。マグリットちゃん、今日も買い出しご苦労さま」
「マグリットちゃん、これオマケだよ。隠れて食べな」
「わぁ、飴玉！嬉しい。おばさん、ありがとう」
「……いいんだよ」
マグリットは街の人たちの同情の視線を感じながらカゴに卵やオマケをしてもらったパンの耳を入れて、立派なお屋敷へと走っていく。
