ギャルエスパー現る
光は今、渋谷109のてっぺんに立っていた。
まさに109と書かれた大きな看板の上だ。
「いやぁ……やっぱ渋谷ってすごい人だな……」
こんな場所から渋谷を見下ろす日が来るなんて夢にも思わなかったが、あまりの人混みに圧倒されていた。
こんなに沢山の人間たちそれぞれにそれぞれの抱えているものがあり、影があると思うと、本気で恐ろしくなる。
そして渋谷は得に、思春期の若者が好む街。
光はゆっくりと目を瞑り、そして開いた。
「うわ……」
スキルを発動すれば、上から見下ろすこの光景が辺り一面真っ黒に蠢く気味の悪い土地にしか見えない。
その影たちは、影同士がぶつかり合い、人間たちの喧嘩やトラブルの引き金にもなっていた。
だから、人が多いこのような賑やかな街では、いざこざなんかはしょっちゅうだ。
キリがないからこそ、そういったトラブルを何十何百と1個1個消していくのが今日の光の任務だった。
「ふーっ…今日はもう50人は超えたし、半分以上は影石砕けたし、そろそろ行こうかな。みんな集まってるだろうしね」
光はマルチなスキルを既にいくつもこなせる分、だいぶ臨機応変に動けるようになっていた。
しかし、そんな自分でも到底満足はできていない。
もっともっと、自分に眠っているスキルを開花させなくてはと焦っていた。
だからこそ、今日という日を楽しみにしていた。
一体どんな人たちと会えるのか…高鳴る鼓動を抑えきれない。
光は、急いで帰ろうと109から飛び降りた。
無事に着地し、パッと顔を上げると、目を丸くしてこちらを見下ろしているギャルがいた。
「!!!!」
ミニスカートから覗く太ももに、露出激しめな服装。
メイクもヘアスタイルも、何もかもがあまりにも派手でどう見えも俗に言うギャルである。
両手に109のショップバッグを大量に持っている。
初めてこんなに間近で本物ギャルを見た光は、思わず後退りした。
「……え?」
そして妙なことに気がつく。
「…な、なんで…?」
明らかに目が合っているのだ。
合うはずはないのに……。
なぜなら今の光は、スキルでノーマルからは見えない透明になっているはずだった。
なのに……
目の前にいるガチギャルは明らかにこちらを見ていて、そして口を開いた。
「え、ビビったァ〜。てかなにあんた?
なんで上から降ってきたん?」
「えっ……や……え……そっちこそ……なんで俺のこと見えるんですか?」
あれ……?
まさか透明になれてない?!
ギャルは上から下までジロジロと、その大慌ての光を見つめている。
かと思えば、「あぁあーーーっ!」と大声を出した。
「あんたもしかしてアレやない?ほら、マルチプレイヤーのナントカくん!なんだっけ、えっと……」
「え……?」
「だってホラそのスニーカー!ガゼルやろ?!」
光は自分のスニーカーについているサイのシンボルマークを見た。
「ってことは、もしかして…
あなたもサイメンバー?」
「せやで!今日から混合訓練開始やろ?
ってことだから喜んで久々東京来てテンション上がってるとこやわ!見て!こんなにいっぱい買い物できてもうちょーーーっさいっこーっ!」
ギャルははしゃぎながらその場で服やら靴やらアクセサリーやらを見せびらかしてきた。
「東京さいこー!ひゃっほほ〜い♡♡」
どれもなんとも派手すぎて光は若干引いてしまう。
が、周りが先程からチラチラとこちらを見ていることに気が付き、慌ててギャルを止める。
「もうわかりましたから!
えっと…俺は月詠光です。お姉さんは?」
「ウチは染葉エメ子。サラマンダーやで」
「えっ、じゃあ大阪の!」
サラマンダーは皆SSだと前回玲二に聞いていたことを思い出す。
「エメ子さんってお幾つなんです?」
「ウチは今年17やで!」
「えぇっ?!同い年?!」
どう見てもそうは見えない。
ギャルは細かいところまで独自のオシャレにこだわるからだろうか?
意外と大人っぽく見えるのだなぁとついジロジロと見てしまった。
自分が通っていた高校には、ここまでのギャルなんていなかった。
「なんや、タメなんや!
じゃー今日からウチらダチな!!」
「あ、うん。じゃあ一緒にガゼル行こうか」
「これから他の奴らと一緒にタピる予定なんや!光は任務だったん?終わったんならとりまウチらと一緒にタピらん?」
「へ……?タピ…タピるってなに?」
「はっ?あんた知らんの?東京の人間ちゃうん?タピオカに決まっとるやん!じゃ!これ持って!」
なぜか大量のショップ紙袋を押し付けられてしまった。
「えぇっ?!ちょっとっ」
そしてずんずんと勝手に歩き出すものだから、後ろから大量の荷物を持ちながらエメ子を見失わないように必死について行く。
そんな自分を客観的に考えると、まるでパシられる彼氏のように感じた。
109の買い物に付き合わされ、荷物をもたされ、彼女の行きたいところについて行く……
彼氏ってみんなこうなんだろうか…?
そして彼女ってこんなかんじ……?
こんな感じが普通の女の子だったなら、間違いなく自分は誰とも付き合えなそうだ。
そう思いながら周りをチラチラと見ると、彼女の荷物を持ってあげている逞しい男性がたくさんいて唖然とする。
「っ!!」
光は前を行くエメ子にも唖然としてしまった。
エメ子は進みながらも周囲の影憑たちをひとつ残らず祓っていくからだ。
しかも、ふんふんと鼻歌を歌い、くるくると踊ったりしながら、まるで魔法をかけるかのようにヒョイヒョイと余裕で祓っている。
よく見るとエメ子の発動しているスキルは、彼女自身の周りにカラフルなオーラを作り、色を自在に使役するようなスキルだと判断した。
あまりにも楽しそうで、周りの人間たちはおそらくただのクレイジーなギャルにしか映っていないだろう。
先程から周りは引き気味な表情で彼女を避けている。
エメ子はそんなことをしながらも今度はスマホを耳に当てて喋りだした。
何とも器用である。
「……え、何?……え〜?も〜!なんでそんなとこいんねん!
とりまはよ来てぇ渋谷のタピ店!
せや!だから昨日写メ見せたやろ?!」
「っっっわ!!」
電話をしながらも、エメ子に呆気に取られていた光の目の前に来た影憑を一瞬で祓い、ウインクするエメ子。
光は、初めて見たSSの強さに初っ端から圧倒されていた。




