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入院の理由


由良真奈美。

彼女がここに入院している理由…


それは、自分の才能になんらかの異変があるかららしかった。


しかしそれは真奈美だけでなく、ここにいるどの患者もそうらしい。


それ以上の詳しいことは、個人情報ともなるため光も知らない。

だから真奈美になんの才能があり、どんな問題があるのかも。


1度だけ、看護師たちが会話しているのが耳に入ったことがある。

周囲に危険が及ぶタイプの才能がある者や、制御不能で暴走しかねないような才能を持っている者は、それ用の別の病棟があるのだとか。


だからこの病棟にはこういった自分のような外部の人間も立ち入りできるのだ。



しかし一つだけ、光は疑問に思っていることがあった。


それは、ここに来る外部の人間はほとんど光くらいだということだ。

というか、他に見たことがない。



普通は身内の人や知り合いとかがお見舞いに来たりするもんじゃないのか?


そういつも思ってきたが、なんとなく、誰にもこのことを聞けないでいた。


真奈美にも、お母さんお父さんは?などと軽々しく聞いてはいけないような気がしていた。



もちろんここは子供だけではない。

小中学生はもちろん、一見自分と同い年くらいの高校生に見える人や、20代30代40代くらいの人たちも見かける。


あまりにも大きく広い病院なので、光は全ての人間を把握できているわけではないと思っているが、1年近く通っているのである程度の人間たちに好かれている。


真奈美はその中でも1番人懐っこくて、自分のことをお兄ちゃんと呼んでくれる天使のような子だった。



ふと、真奈美の膝の上にあるテディベアを見ながら看護師との会話を思い出す。


「あの…真奈美ちゃんっていつ退院できたりするんですか?その…完治するのはいつ頃なんですかね」


「え…?」


看護師はその時、なんのことを言っているのか分からないと言ったような顔をした。まるで退院という概念がないかのように。

そして数回瞬きしてから、あー…と声に出した。


「…そっか。まだ聞いてなかったのね。

あのね、ここの病棟にいる人たちはもれなく皆、退院や完治はないの」


「え?!それって……」


「うん。ここにいる人は皆、一生ここで暮らすのよ」



ーーーーーーーーーーーー



真奈美の折り鶴は一見鶴には見えないが、5歳児にしてはだいぶ上手いと思った。



「ねぇ真奈美ちゃん、真奈美ちゃんはさ、将来の夢とかあるの?」


真奈美は一瞬手を止めた。光は聞きちゃいけないことを聞いてしまったかと一瞬ヒヤリとしたが、次の瞬間には真奈美の即答が聞こえた。


「お医者さん!」


「…お医者さん?」


「うん!ここの人たちみたいにね、優しくて素敵なお医者さんになってね、いつかマナも皆を助けてあげるんだ!」


「…そっか。良い夢だね。きっと……」


きっと叶うよ。

その言葉がなぜか出てこなかった。


でも……そっか。

ここの医者や看護師はみんな、さぞ優しいんだろうな。この子がいつもこんなに笑顔なんだから。



「そういえば、そのクマには名前はつけたの?」


「うん!クマちゃん!」


「え…?」


「クマだからクマちゃん!」


一瞬ポカンとしたが、つい口元が緩んでしまった。

その瞬間、


「はぁ?ばっかじゃねぇのお前」


という声が背後から聞こえ、ビクッと背筋が伸びた。

振り返ると、中條 志門(ちゅうじょう しもん)が仏頂面で突っ立っていた。


「やぁ志門くん!相変わらず音を立てずに忍び寄るのが上手いね」


彼はなぜだかいつも全く音を立てないため、よく真横にいたり真後ろにいたりしてかなり驚かされる。

結構生意気な10歳くらいの少年だ。



「クマにクマってウケ狙いにすらなってねぇわ」


「いや別に真奈美ちゃんはウケ狙ってないと思うけど」


「なによ!マナのクマちゃんなんだから勝手でしょ!」



そしてこの2人はよく言い争っている。


「まぁまぁ喧嘩しないでよ。あ、志門くんは折り紙できる?」


「んなくだらねぇもんしねぇよ!子供か!」


「子供だろ志門くんだって…まぁ俺だって…」


「今日は見てほしいもんがあんだよ光。」


「お、何、見てほしいもの?」


「ちょっと来い」


「おっとっと、待ってよ」


志門は突然光の手を乱暴に引き出した。

「マナの光兄ちゃん返してー!」と叫ぶ怒ったような真奈美の声が後ろから聞こえた。




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