人はいつかは死ぬ
自分なりに超特急で走って病院に到着した。
「はぁ…はぁ……疲れた……
やっぱ俺も颯みたいな脚ありゃなー……ん??」
何かがおかしい。
院内に入った途端、いつも騒がしく迎え入れてくれる看護師たちがいない。
異様な空気に包まれながら進んでいくと、バタバタと1人の看護師が走ってきた。
いつもは、院内を走るなと口を酸っぱくして言っているあの明るい看護師だ。
どうやら人が出入りすると鳴るセンサーで分かったようだった。
「光くんっ!待ってたのよ!」
「えっ……何かあったんですか…?」
「あのね……落ち着いて聞いてね。」
真奈美の病室に近づくと、
外廊下には患者も看護師も集まっていた。
光が現れると、皆、暗い顔をして俯いた。
「真奈美…ちゃん……?」
白い布が被せられている。
「なんで…………だってっ……」
だって昨日はあんなに元気そうに
いつも通り俺とも遊んでたじゃないか。
「最期にお顔、見てってね」
そう言って看護師が白布を剥がした。
それと同時に光は固まったように動けなくなった。
文字通り血の気が引く。
「嘘……だろ……」
元々白い肌が、透き通るくらいの白になっており、いつも可愛いピンク色だった頬っぺや唇までその色になっていた。
医者、看護師たちが言うには、
朝起こしに行くと、既にベッドの中で冷たくなっていたらしい。
「俺……これ貰ったんだ。昨晩…寝る前に…。」
廊下の角のソファーでボーッと窓の外を見つめていたら、
中条志門がクマのぬいぐるみを持って横に腰かけた。
「そっか……。考えてみたらさ……
昨日俺と別れる時も、真奈美ちゃん少し様子がいつもと違ったんだよな……」
でも真奈美のことだ。
きっと昨日はみんなの前では必死にいつも通りにしようとしていたんだろう。
「真奈美ちゃん……一人ぼっちで天国に行くの…寂しかっただろうな……」
昨日の心底寂しそうな真奈美の顔を思い浮かべて、ついそう呟いてしまった。
「だから帰り際……俺を引き止めたのかも…っ…
俺があの時もう少し……っそばにいてあげればっ……」
"まだもう少しいられない?"
そう伝えてきた幼い女の子の声が脳裏に反芻する。
どうしてあの時、
うんと言ってあげられなかったのか……
「ごめんっ……真奈美ちゃん…っ…」
頬を伝う生暖かい涙が握りしめる手の甲に落ちていく。
「あいつは独りじゃなかったよ」
隣にいる志門が、クマの手を握ってポツリと言った。
「あいつは……」
志門は俯いて何も言わなくなった。
カラカラカラ……
車椅子の音がしたかと思えば、光の隣に美乃里が現れた。
「……これ。」
そう言って渡されたのは、不格好な折り鶴だった。
羽のところには、「ひかりおにいちゃん」
もう1つの羽の方には、「だいすき」
と書かれていた。
その瞬間、ブワッと溢れてきた涙で視界が歪み、たちまち折り鶴は見えなくなった。
「…あれから何個も練習してたみたい」
「そ……っか……っうん、上手だよ…っ」
「あのさ…人っていつかは死ぬんだよ」
「……うん…っ…そうだね……」
「人が死ぬたびにいちいちそんなにメソメソしてたらさ…あんた生きていけないよ」
「…っ……分かってるんだけどさ…っ…」
身近な人が、大切な人が、
死んでしまったのは光にとって初めての経験だった。
「ただ……知らなかったんだっ……」
それがこんなに辛いことだなんて。
知らなかったんだ。
そして気がついてしまった。
なぜこの子たちや看護師、この院にいる皆がこんなにも冷静なのか。
きっと何度も同じ経験をしてきたのだろう。
だって俺は今日、
誰の涙も見ていない。




