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こちら妖怪相談部

初投稿になります。

自信はないですが自分の好きを詰め込んだ作品になっているので、どこかの誰かに刺さってくれれば嬉しいです。


この世界には、妖怪という存在がいる。


人間でも、動物でも、無機物でもない不思議な彼らは通常、人には見ることができない。


彼らは、基本的には人間が大好きで、気まぐれに悪戯や手助けをしながらも、干渉しすぎない程よい距離感を保って生きていた。


しかし、そんな彼らも生きるため、人間について学ぶため…そんな様々な理由で人間に紛れて生きている。


その場所は田舎から都会まで幅広い。


もしかすると、貴方の隣のあの人も…




「行ってきます」

「おーおー、事故るなよ」


気の抜けた祖父の声に見送られながら水戸拓己は家を飛び出した。


「やばいやばいやばいやばい」


薄月高校に入学してからわずか1週間。

拓己は早くも3度目の遅刻をする寸前であった。


入学式以降、遅刻か滑り込みセーフを繰り返していた拓己に、苦虫を噛み潰したような顔をした担任が告げたのは、『次に遅刻をしたら反省文ね』のひとことであった。


「反省文だけは…ムリ」


放課後の部活の時間を奪われたくない。あとめんどくさい。何よりバカにされたくない。そんなしょうもない、本人からしたら重大な理由を抱えて走り続けた。


「…?」


そんな中、ふと聞こえたカラスの声と羽ばたく音。

どこか異様な雰囲気に、拓己は足を止めた。

音の聞こえてくる路地を覗き込むと、羽ばたきながら生き物らしきものを取り囲んでいる数羽のカラスの姿。


「なに、してんだ…よっ!」


拓己は反射的に肩に引っ掛けていたリュックの紐を手に持ち替えて、力いっぱい振り回した。


バサバサと音を立てながらカラスが飛び立っていったのを確認してから、いまだに動かないその生き物のそばにそっとしゃがみ込んだ。

抵抗する様子がないことを確認しながら、そっと持ち上げると、どうやらその生き物は三毛猫だったようで、黒い耳や白と茶色がまだらになった尻尾が力無く下がっていた。


「…怪我はなし、首輪…もない。野良、か?」


少しの間考えていたものの、まずは病院に連れて行かなくてはと思い直して、リュックを背負い直し、腕の中の猫を揺らさないようそっと馴染みの病院へと急いだ。





「マリコさん、いる!?」


病院の誰もいない待合室に入るが否や、受付の女性に飛びかからん勢いで尋ねた。


「ええと、先生ですか…?」

「そう、早く!」

「私ならここよ」


戸惑う女性と焦る拓己の間を割るように、凛とした声が響いた。


「! マリコさん」


ヒールを鳴らしながら颯爽と現れた女性に拓己は駆け寄った。


「誰かと思えばたくみんじゃない。アンタがうちに来るのも久しぶりね」

「たしかに。久しぶり…ってそうじゃなくて!」


そこで言葉を切ると、両腕の中に抱え込んでいた三毛猫を見せた。


「こいつ、カラスに襲われてて…怪我はないんだけど動かなくて…。助かる?」

「助かるじゃなくて助けるのよ。この子はこっちで預かるからアンタは早く学校に行きな」

「で、でも…!」

「そもそも、アンタがいても何もできないじゃない」

「うぅ…」


バッサリと切り捨てられて項垂れる拓己に、マリコは正面から向き直るとニヤリと笑った。


「よくやった。アンタのおかげでこいつは助かる可能性が出てきたのよ」

「…! さすが、母さんの大親友だね。年の功なのかな?いいこと言うわ」


マリコは泣きそうになったのを誤魔化すように冗談を言った拓己の背中を蹴り飛ばした。


「いくら照れ隠しだろうが言っていいことと悪いことがあるんだよ。さっさと学校行きな!このお子様」





病院を追い出されてしまった拓己は、しばらくの間は後ろをチラチラと伺いながら学校へと進んでいたが、スマホがメッセージを受信したと振動していることに気がついた。

その画面は友達とのグループトークに多くの通知が来ていることを示していた。


『今日遅れたら反省文なの覚えてるか?後5分で始まるけど今日も遅刻か?先生マジでカウントダウンしてんぞ』

煽りながらも状況を知らせてくれているメッセージから始まり

『体調でも悪い?大丈夫?』

心配するようなメッセージに変わり

『はい、遅刻〜!拓己は反省文決定です!おめでとう〜』

煽るようなメッセージへと戻っていた


そこから未だ続いているスタンプの嵐。


「はぁ…」


拓己は軽く頭を抱えると、一言だけ送信して学校へと走った。


『覚悟しとけよ?馬鹿どもが』





先生の声が響いている教室の扉をそっと開けて中を伺おうとした瞬間、教卓に立つ担任と目が合った。


「げ」

「おお、水戸!先生待ってたぞ」

「…あー、そっすか」


頑なに目を合わせない拓己に苦笑しながら担任は原稿用紙を手渡した。


「これ、反省文の原稿用紙。3枚全部書いて放課後に提出ね」

「3枚?放課後?」

「そうそう。最終下校時刻までには提出してちゃんと帰れよー」


そこまで言うと、担任は授業を再開した。


「うぃーす」


黒板に向かうその背中に、返事を返しながらもなんとなく腑に落ちないな。なんて思いながら自分の席についた。




その後、授業が終わり休み時間になった。

早速原稿用紙と向き合う拓己に3つの人影が近づいた。

「まーた遅刻して!だからもっと早く起きろって言っただろ!?朝ごはんちゃんと食べたのか?」

もはや怒っているのか世話を焼いているのかわからない、煽りと状況説明のメッセージを送ってきた前田悠貴。

「まあまあ!怪我とかじゃなくてよかったじゃん!」

笑いながら悠貴を宥めるのは心配のメッセージを送ってきた村上風雅。

「たしかにね!乗り過ごして違うところに行っちゃってるんじゃなくてよかったよぉ」

ほわほわと笑うのは煽りのメッセージを送ってきた林和真。


「…いや、俺は徒歩通なのよ」

「何を乗り過ごすんだよ!」

「怖いよ!?」

「冗談だよ〜」


いつも通りの和真の天然なのか、よくわからないぶっ飛んだ発言にひとしきり混乱した後、拓己は再び原稿用紙へと向き合った。


「俺ら横で指スマしながら応援してるね〜」

「やかましいわ」


そんなこんなで6限の前の休み時間になった。


「やっほー。あとどれくらい?」

「風雅か、ラスト0.5枚」

「おお!もう少しだね。部活間に合いそうじゃん!頑張れ!」

「おー」


2人がまったり話をしていると、教室に古典の教師が入ってきた。


「あ、山セン」


その言葉を聞いた瞬間、拓己は原稿用紙を机の中に隠した。


「山本先生、お疲れ様です!」

「おー、拓己。今日も頑張ってるか?」

「あったりまえじゃないですか!」

「…村上、コイツほんとに頑張ってたか?」

「うぇ!?あ、えっと、遅刻して反省文書いてました!」

「バカっ!」

「…ほう?」


怒りと笑いが交じった顔で拓己を見つける山本先生が、その表情のまま軽くデコピンをした。


「あだっ!」

「はぁ…部活があれば外周を走らせてやったんだがなぁ…。今日の部活が休みになってよかったな?」

「え…?今日の部活無くなったんすか?」

「ああ。…試合が近いからって野球部に場所を譲らされたんだよ!」

「野球部めぇ…!」


悔しそうにしている拓己と山本先生に、呆れた顔をした風雅がボソリとつぶやいた。


「なんで拓己まで悔しがってんの…」




それからしばらくして、ホームルームが終わった教室に、ペンを走らせる音が響いていた。


「お、わったぁ…!」


ペンを置いて机の上にペシャリと崩れた拓己のそばで座っていた3人が顔を上げた。


「お疲れ。燃え尽きてんな!」

「早めに終わってよかったね」

「おー。さんきゅ」


ぼんやりと話をしていると、ワクワクした様子の和真が原稿用紙を手に取った。


「ねー、拓己。これ読んでもいい?」

「あー?好きにして」


拓己がそう言うが早いか、3人で反省文を読み回し始めた。


「お前やっぱ文を書くのが上手いな」

「途中から小説を読んでる気分だったよ」

「俺ね、拓己の作文好きなんだよねぇ」


わかる〜!とひとしきり盛り上がったあと、3人は声を揃えて言った。


「「「もっと反省文書かされればいいのにね」」」


静かな教室に明るく響いたその言葉に、拓己は力無く呟いた。


「2度と書かねーからな、このバカどもが…」




あの後、拓己以外の3人は部活があるからと足早に教室を去り、1人になった拓己はそのまま職員室へ向かった。


「お疲れ」

「もう遅刻するなよ」

「へーい。失礼しましたー」


担任に反省文を提出して、顧問と担任に仕方がないなという苦笑混じりの声に見送られながら職員室を後にした。

それから、あの猫は無事だろうかと足早に病院へと向かった。


「マリコさーん!猫、無事ー?」


そう言いながら病院に入ると、朝の騒動を覚えていたらしい受付の女性が立ち上がった。


「あなた、今朝の」

「あ、はい。ども…」

「先生なら奥にいますよ。案内しましょうか?」

「や、来たことあるんで…大丈夫です」


にこやかに尋ねてくる女性の視線から逃れるように奥へと足を進めた。


「マリコさん、いる?」

「おー、ここにいるよ」


部屋から顔だけを出してマリコが答えた。

その部屋の中に入った拓己は、キョロキョロと辺りを見回した。


「猫は?」

「ここだな」

「なんで?」

「出て来ないんだよ…」


指差した先は机の下。

覗き込んでみると、なるほど。

金色の光がふたつ見えた。

しばらくその様子を見つめていると、猫の方から微かな声が聞こえてきた。


“どうしよう”

“助けて”

思わず猫に小声で問いかける。

「今の、お前?」


その瞳は驚いたように見開かれた後、頷くようにひとつ瞬きをした。

ならばと、もうひとつ問いかけた。

「ここから逃げたいの?…うちに来る?」


瞳は再びひとつ瞬いた。

それを見た瞬間、驚いた猫に牙や爪をたてられるのも厭わず、机の下から引っ張り出した。


「…こいつ、うちで保護してもいい?」




「ただいま」


三毛猫と一緒に帰宅した拓己が最初に向かったのは祖父のところだった。


「おかえ…あ?猫?」


怪訝な顔をした祖父の視線から逃れるように、猫を顔の前まで持ち上げた。


「こいつ、うちで飼ってもいい?」


猫越しにおずおずと尋ねられたその言葉に、思わず頭を抱えた。


「どうしたんだ?そいつ」

「カラスに襲われてるところを保護した」

「飼い猫じゃねぇのか?」

「首輪もしてないし人になれてないみたいだから多分野良だろうってマリコさんが」

「……」

「ね、お願い。ちゃんと自分で世話するから!」


猫ごとにじり寄ってくる孫に、祖父はひとつ大きなため息をついた後で呟いた。


「…一応、張り紙貼っとけよ」

「!! じいちゃんありがとう!」


それは、少なくとも元の飼い主が現れるまではうちで保護してもいいと言うお許しの言葉。

嬉しくなった拓己は、くふくふと笑いながら猫と顔を突き合わせた後、2階にある自分の部屋へと駆け上がった。


その後、自分の部屋の床に2枚の座布団を敷いて、片側に猫を座らせて、すぐそばに大きな木が枝を伸ばしている窓を開けてから、自分も反対側の座布団に座った。

1人と1匹はしばらく見つめ合っていたが、徐に1人が口火を切った。


「勝手に連れてきちゃってごめんね?マリコさんの手前、一度はじいちゃんに合わせて辻褄合わせをしておいた方がいいと思って…。あなただって自分の生活があるよね…」

そこで一度言葉を切ると、チラリと先ほど開けた窓の方を見た。

「あそこから、適当に出ていってくれる?じいちゃんには逃げたって言っておくから、さ。猫又さん」


その瞬間、猫の周りが小さく爆発した。


「!?」

「やっぱり。君、見える人の子だったか」


爆発の煙の中から聞きなれない声がして、思わず身構えた拓己。

煙が晴れてその目の前に現れたのは、ひと回りほど大きくなり、尻尾が二股に分かれた先ほどの三毛猫だった。


「お察しの通り、俺は猫又だよ。さっきは助けてくれてありがとう」


深くお礼をする三毛猫…もとい猫又に、拓己が思わず頭を下げ返した。

そして、ふと顔を上げると先に顔を上げていたらしい猫又と目が合った。

猫又はニコニコと嬉しそうにしながら言葉を紡ぐ。


「しかし、俺らが見える人の子なんて数百年ぶりに見たなぁ…。それにしても、驚かないんだね」


不思議そうにしている猫又に、拓己は自身の頭を掻きながら答えた。


「あー、これでもかなり驚いてるよ。でも、幼馴染に神社の家のやつがいるのとか、小さい頃に妖怪の親友がいたこととかが関係してる…のかも?」


首を傾げてしまった拓己に苦笑しながら猫又は返した。


「えっと、聞きたいことが色々と出てきたんだけだけど…まあ、今はいいか。それよりさ、ひとつお願いがあるんだけど、君がよかったらもう少しここに居させてくれないかな?恩返しも兼ねて」


キラキラとした瞳でこちらを見つめる猫又に、根負けしたように拓己は項垂れた。


「…別に恩返しとかはいいからさ、気が済むまでここにいなよ」

「ほんと!?…これからよろしくね?拓己くん」

「! …よろしく、猫又さん」


微笑んだ拓己に、猫又は笑みを深めた。


「颯太。川島颯太」

「へ?」

「俺が今使ってる名前だから、こっちで呼んでね」

「…颯太さん?」

「! うん。そうだよ、拓己くん」


2人は照れくさそうに笑い合った。




こうして、1人と1匹の奇妙な日々が始まった。

この異例の出会いがきっかけでどんなことが起こるのか。

それはまだ、誰も知らない。

続きもなるべく早くあげられるよう頑張りますのでお待ちいただけますと幸いです。

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