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第18話 ユウナを救え

 どさっ!!


「きゃっ!?」


 乱暴に突き飛ばされ、草むらの中に倒れ込む。


 男に連れてこられたのは、マンションの裏手。

 ここはちょっとした谷になっており、小さな川が流れている。


 うっそうと茂る木々のせいで周囲からは見えにくい場所だ。


 ごおおおおっ


 悪いことに、昨日降った雨で川が増水している。

 少し叫んだくらいでは、声は届かないかもしれない。


「へ、へへ……やばい依頼を受けちまったから、少しくらいは楽しまないとな」


 そこで初めて男が声を出す。

 ゴーグルとマスクのせいで表情は見えないが、呼吸は荒く興奮しているのが分かる。


(あっ!?)


 突き飛ばされた衝撃でスカートは大きくめくれ、黒タイツは破れてしまった。


 むき出しになった白い太ももとふくらはぎが月明かりに艶めかしく光る。


「ぐ、たまんねぇな……コイツが”ゆゆ”とは信じられねぇが」


「!!」


(やばっ)


 この男は、自分がゆゆだと知っている!?


「悪く思うなよ」


 その事実に衝撃を受けている暇もなく、男の手がユウナの上半身に伸びる。


 ビリイイイイイイッッ!


 ピンクのブラウスは引き裂かれ、お気に入りの下着があらわになる。


(こ、この!)


 タクミおにいちゃんに捧げる前に、キズモノにされてたまるもんか!!


 スキルを使う事を躊躇していたけど、もうやるしかない。


「…………あ」


 魔法を発動させようと開いた口からはしかし、僅かな吐息しか発せられなかった。

 既にドライアドの毒が全身に回り切っていたのだ。


「へ、何もできないようだな」


 男の身体がユウナに覆いかぶさる。


(タクミおにいちゃん! 兄貴!!)


 ユウナはきつく目を閉じた。



 ***  ***


「くそっ! ユウナ!!」


 嫌な予感がどんどん大きくなってきた俺は、いつしか全力疾走していた。


「!!」


 ユウナのマンションの前まで来た時、俺の五感は僅かな異常を察知する。


 いつもダンジョンで感じる独特の匂い。

 倉庫でいつも触っていたヴァナランドの素材の匂い。


(探索者が、いる!?)


 しかも、何かスキルを使った可能性が高い。

 恥をかかされた悪霊の鷹の連中が、ゆゆに仕返しを企んでいたとしたら。


 ふわり


 その時、いつもユウナがつけているデオドラントの香りが俺の鼻をくすぐる。


「こっちか!!」


 俺はマンションの裏手にある小さな谷を降りて行った。



 ***  ***


「観念したか、なるべく優しくしてやるよ」


 きつく目を閉じ、震えている”ゆゆ”。


 男の手が、ブラのホックに伸びる……。



 ***  ***


「ユウナ!!」


 谷を下った川のほとり。

 草むらの中にユウナが押し倒されているのが見えた。

 その上には黒ずくめの男が覆いかぶさっている。


 まだ何もされていないようだが、もう一刻の猶予もない。


「貴様ああああああああっ!!

 ユウナから、離れろおおおおっ!!」


 ありったけの声を振り絞り、叫ぶ!!


「なっ!?」


「タクミおにいちゃん!!」


 閉じられていたユウナの目がぱっと開き、大きな目からぶわっと涙があふれるのが見えた。


「もう大丈夫だ! お前は、俺が守る!!」


 激情のまま、俺は右腕を男の顔めがけて振り下ろす。


 バキッ!!


「げふうっ!?」


 豪快に吹き飛び、草むらに突っ込んで気絶する男。


「ユウナ!!」


 俺は彼女を抱きしめると、クリーナースキルを発動させる。

 中堅クラスまで成長した”ゆゆ”であるユウナだ。

 こんな小物探索者にいいようにされるはずはない。


 何か魔法的な毒を盛られている、俺はそう判断していた。


「あうっ、タクミおにいちゃん!!」


 青白かったユウナの顔色が、見る見るうちによくなっていく。


「怖かった、こわかったよぉ!!」


 子供のように泣きじゃくるユウナを俺は優しく撫で続けるのだった。


 慌てて駆け付けたマサトさんが犯人の男を始末しようとしたのをギリギリ止めるというハプニングが発生したものの、駆け付けた警察に犯人を突き出し、俺たちは少し落ち着いたユウナを連れ彼女の家に上がるのだった。


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。


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