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第14話 迷惑配信者をブッ飛ばせ(前編)

「そいつ”ゆゆ”だぜ! アイドル配信者の」


「へぇ、思ったよりかわいいじゃん」

「なんでポリのコスプレしてんの?」


「なんだこの着ぐるみ?」


 部屋の中にいたのは見張りの男を含めて4人。


 毒々しいドクロが描かれた鎧を身に着けており、腕には刺青が描かれている。


(コイツら、強い……!)


 足さばき、こちらのレベルを推し量るような視線……隙が全く無い。


 不測の事態に即座に反応できるよう右手はマジックロッドの柄に掛かっていて、再生数稼ぎのバイト迷惑配信者じゃない!


 ”こいつら、悪霊のエビルズ・イーグルじゃね?”

 ”え? あの高レベル密猟者の?”

 ”迷惑系配信もやるのかよ!”


 悪霊のエビルズ・イーグル……厨二病みたいなチーム名だが、俺も聞いた事があった。


 主に反社組織などの依頼で、脱法スレスレの素材を集める凄腕探索者。

 過去になんども他の探索者とトラブルを起こしているのに捕まらないのは、メンバーの一人が某大臣の息子である……というのはネット上のウワサだが、とにかく乱暴で評判の悪い連中だ。


「へぇ、俺らも有名になったじゃん!」

「ぎゃはは、ちげぇねぇ!」


「つまんねー依頼だと思ってたら、ちっとは楽しめそうだな!」


 下卑た笑い声をあげながら、得物を構える悪霊の鷹。


 正面にいる赤髪の男が、確かリーダーの……トウジとか言う名前だったか。


 ぎゃうぎゃうん!?


『おいゆゆ、そいつらはマズい、早く離脱を!』


「…………」


 獣型モンスターの悲鳴が木霊す中、撤退を促すチャットがマサトさんから入るが、ゆゆは見ようともしない。


 形の良い唇はへの字に曲げられ、眉間には皺が寄っている。

 そうとうご機嫌斜めのようだ。


「……おにーさんたちさぁ。

 その子は”保護モンスター”でしょ?

 いい大人がやめなよ」


 連中が火をつけたのはホワイトカーバンクル。


 ”神獣”に分類される大型の獣型モンスターで、例外的に人間に無害な種だ。

 眉間の上に大きな宝玉を付けたレッサーパンダのような姿をしており、可愛らしい風貌が人気でもある。


(タクミっち!)


「もふっ!」


 ゆゆのアイコンタクトを察知した俺は、すかさず”クリーナー・ドライ”を発動させる。


「ブリザードLV2!」


 びゅおおおおおおおおっ!


「……へぇ?」


 俺のバフスキルにより最低限のモーションで放たれたゆゆの氷雪魔法は、トウジの腕の間をすり抜け、燃え盛るホワイトカーバンクルに直撃し、全身を覆っていた炎を吹き消す。


 しゅうううっ


 たたっ


 俺たちが助けてくれたと理解したのだろう。

 走り寄って来たホワイトカーバンクルがだんきちの影に隠れる。


 きゅうううんっ


「よしよし、熱かったろ?」


 俺は着ぐるみのポケットから回復薬を取り出し、ホワイトカーバンクルの全身に塗ってやる。


 きゅうん♪


 すりすりと甘えてくるホワイトカーバンクル。


 ”さすがゆゆとだんきち! 優しい!”

 ”おいおい、さすがにヤバくないか”

 ”こっちはダンジョン警察案件なんだから、大丈夫だろ”

 ”それより、ゆゆたちを応援しようぜ!”

 ”がんばれ、ゆゆ!”


 俺たちの配信に、沢山のコメントが書き込まれる。


「へっ、お優しいこって」


 ”JKアイドル風情が、調子に乗んなよ?”

 ”なんだよあのふざけた着ぐるみ”

 ”ポリの手先なんざ、ぶっ潰しちまえ!”

 ”こっちにはデカいバックがあんだよ!”

 ”どうせなら、ゆゆのレ○プショーを見せてくれよ!!”


「くくっ、オレらのファンは不満そうだぜ?」


 悪霊の鷹のファンらしき連中が乱入し、荒れ始めるコメント欄。


 ”反社くずれを応援するクズは消えろや”

 ”はっ、ガキのケツばかり追っかけてるキモオタどもが! かかって来いよ!”

 ”ゆゆ、そんな奴らブチのめしちゃえ!”

 ”おいおい、そんなにゆゆがトウジさんに犯される光景が見たいのかよ!”

 ”はぁ!? そんなことしたら連中全員逮捕だろ! けしかけたお前らも同罪だ!”

 ”はいはい、キモいナードは良く吠えるねぇ。ゆゆにお似合いの連中だぜ”


「…………(ぷちん)」


(ヤバイ)


 コメント欄は荒れ放題だし、ゆゆのヤツ、すっかり怒りで周囲が見えなくなっている。彼女は自分のフォロワーを馬鹿にされるのが一番嫌いなのだ。


『タクミ君、ダンジョン警察には僕から通報しておいたから、なんとかゆゆを抑えて逃げてくれないか?

 最悪、”あのスキル”を使ってもいい』


『了解です!』


 マサトさんのチャットに返信し、さりげなくゆゆの背後に移動する。


 ゆゆが動いた瞬間に飛び掛かり、彼女を抱きかかえて一気に離脱するのだ。

 幸い、ゆゆは悪霊の鷹の連中に注意が向いている。


「へっ、甘ぇ」


 だがトウジは、こちらの意図を見抜いていたようで。


 カッ


「……え?」


 ヤツの指先が微かに明滅した。

 そのようにしか認識できなかった。


 ドシュッ!


 次の瞬間、光の矢がホワイトカーバンクルを貫いていた。


「なっ!?」


 どさり


 声もなく倒れ込むホワイトカーバンクル。

 光の矢に貫かれた腹からは、血が流れだしている。


「なっ!?」

「なにすんの!!」


 だんっ!


「しまった!!」


 ホワイトカーバンクルに気を取られた瞬間、逆上したゆゆがトウジに向かって突進する。相手は人間なので、剣ではなく格闘術で制圧するつもりらしい。


「くそっ!」


 慌ててゆゆを追うが、トウジの口がわずかに歪んでいるのが見えてしまう。

 これは、罠だ!


「はん、ちょろいガキだぜ!」


「……えっ!?」


 ゴオオオオオオオッ!


 飛び込んできたゆゆを迎撃するように、膨大な魔力がトウジの手のひらに発生する。


 アレは、上級モンスター制圧用の衝撃魔法!?

 あんなのを食らったら、ただでは済まない。


「くそっ!」


 あのスキルを使うなら、今しかない!

 俺はスキルツリーを開き、スキルの発動準備をする。


「ごめん、ゆゆ!」


 どがっ!


 そのままゆゆの背中に体当たりし、衝撃魔法の射線から逸らす。


「タクミおにいちゃん!?」


「ち、まずはお前だ! 着ぐるみ!!」


 狙いを外されたことに一瞬驚きの表情を浮かべたトウジだが、すぐさまターゲットを俺に変更し衝撃魔法を発動させる。


「ぶっ殺してやる!!」


 ”お楽しみ”を想定して、ゆゆ相手には手加減していたのだろう。

 トウジの全力衝撃魔法が俺に迫る。


 ゴゴゴゴゴゴッ!


「”クリーナー・フィーア”!!」


 俺は躊躇なく、新しいスキルを発動させた。


 バシュウウウウウウウウウウッ!!


「…………はぁ!?」


「ウソ、だろ?」


 ぽかんと口を開け、アホ面を晒すトウジ。


 それはそうだろう。

 俺の操るだんきちの短い腕が……一撃必殺のはずの衝撃魔法をきれいさっぱり吹き飛ばしたのだから。


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