今宵の妄想
学生時代に付き合っていたひとから
突然ラインがきた
ちょっとドキドキする 年甲斐もなく
写真も送られてきた
ニットキャップを被って微笑んでいる
さすがに積み重ねた時を感じるが
上手く重ねていると思った
ただ 何かちょっと違和感を感じた
でも あまり気にもかけず
当たり障りのない返事を返した
翌日もまた写真が届いた
ヤンキースのキャップを被っている
黒地に白のロゴ
あれ?
Nの字が裏返しだ
そうか
自撮りしてミラーモードのままなのね
一枚目の写真に感じた違和感の正体はこれだ
彼は左顔の方が優しいから と言って
いつも左側から撮影していたのに
あの写真は右顔だった
三日目に届いた写真では
ちょっとつばの広い登山帽を被っている
無精ひげを生やした顎は
あの頃と変わらず
男らしい意志の強さを感じる
目じりの皺も ほうれい線も
わたしの脳内修正アプリにより消し去られた
20代の青年に変換された彼から
「今度 久しぶりに会えないか?」
待ち合わせ場所に
キャップを被った彼の姿をみつけた
私の写真は恥ずかしいから送っていない
修正しても会えばバレる
私のことわかるかなぁ
その時 彼はキャップを持ち上げ額の汗をぬぐった
キャップの下の彼の額は
大胆に領土を広げ
頂上は地肌を覗かせていた
送られてきた写真ですべて
帽子を被っていた理由が分かった
修正された画像は
瞬時にオリジナルに戻った
周囲を見回す彼の視線が私の前を通り過ぎ
素早くキャップを被りなおした
やっぱり 私に気付かなかった
結局
「急に用事ができたので 今日は会えません」
これが最後の送信
彼からの返信は
「花柄のブラウス似合ってたよ」