魔法石とラジオ放送(番外編)
1-菅原涼華の悲恋。
菅原涼華は斗南華と一緒に世栄玲奈のラジオ修理工房に来ていた。
そこに二十代と思しき軍の制服を着た男性が来た。
士官候補生の制服だった。
菅原涼華はその男性の元に駆け寄って言う。
「お兄さん、かっこいいね」
その男性は「ありがとうね。ところで君のお母さんは?」
菅原涼華は「そこに居るよ?」と言って斗南華の方を見た。
その男性は改まって敬礼をする。
そして「斗南中将が母親!?」と驚いた様子だった。
斗南華は菅原涼華に言う。「まーた、ナンパして…。まだそういうのはあなたには早いわよ?」
菅原涼華は「私だって、もう高校生なんだから、ちょっとくらい良いでしょ?」とふてくされた様子だった。
菅原涼華はその男性に言う。「付き合ってもらえませんか?」
その男性は「いきなりだなぁ…」と困惑した様子を見せつつも「君、まだ高校生なんだって?だから君が大きくなったときにまたおいで」と連絡先を書いた紙を菅原涼華に渡した。
それからというモノ菅原涼華はその士官候補生の軍人、下村英輝と連絡を取り合った。
下村英輝は成績優秀な士官になった。
そして下村英輝は対魔法界方面の監視任務に就くようになった。
その時、菅原涼華が18歳の時だった。
魔法界と一般界で偶発的な軍事衝突が起きて下村英輝は殉職した。
変わり果てて帰ってきた兄の姿に妹の下村英子は泣いていた。
階級は上がって生活は安泰だったが、そういう問題では無かった。
少将から大将に成りはしたが不本意だっただろう。
魔法界が一般界の独立記念日に攻撃を仕掛けたことから、この事件は血の独立記念日と呼ばれた。
菅原涼華は告白するために制服を脱ぎ捨てて、勝負の私服を着て下村英輝の家へと自分の運転する車で向かった。
下村家の玄関で呼び鈴を鳴らす菅原涼華。
しかし、誰も出てくる気配は無い。
なので、もう一回呼び鈴を鳴らした。
すると、慌ただしく喪服を着た女の人が出てきた。
どこか、英輝に似た面影がある。
菅原涼華は「あの英輝さんは…」と言う。
その女性は泣きながら「英輝なら一昨日。無言で帰宅をしました。こんな可愛い子を待たしてそんなことをするなんて、兄はむごい人なの…」と言った。
もはや最後の方は絶叫だったと言っても良い。
菅原涼華は意味が分からなかったし、分かりたくなった。
菅原涼華は「どういうことですか…?」とあらためて聞き直してしまった。
その女性は叫ぶように「兄は死んだんです!!!あの血の独立記念日に!!!!私が軍人だったら魔法界の民間人を皆殺しにしていたわ!!!!」と。
奥から、他の親戚だろうか声がした。「英子さん…ちょっと落ち着いて…」
そして、その親戚は言う。「英輝の恋人だったんだろ?焼香だけでもして行きな?」
菅原涼華は焼香してから、下村英輝の顔を見た。
今にも目を覚ましそうで、寝ているだけのようだった。
その後、菅原涼華は下村英子に呼ばれた。
下村英子は言う。「さっきはごめんなさい…。私も現実を受け入れられなくて…。さっきは強いあたりをしてしまいごめんなさい…」
菅原涼華は「いえいえ、こちらこそ礼節を欠いた行動だったと、ごめんなさい…」
下村英子は「悲しみで、それしか考えられない時に葬儀やあれやで忙しくしないといけないのは、何故なんでしょうね…」と悲しそうに言った。
2-東花海の相手探し。
世栄玲奈のラジオ修理工房に東花海が来た。
世栄玲奈は「いらっしゃい、ラジオの修理?」と訊ねる。
東花海は「今日はちょっとここでゆっくりしていくわ…」と言った。
明らかにただならぬ雰囲気だった。
世栄玲奈は見かねて、コーヒーを近くで買ってきて、ぼーっしている東花海に声を掛ける。
「どうした?」と。
東花海は「この人だと思ったのに…振られた…」と泣き出した。
世栄玲奈は東花海の頭を撫でながら、「それは辛かったね…」と言った。
東花海は優しさに触れて涙が止まらなかった…。
そして、東花海は世栄玲奈に言う。「誰かいい人知らない?」
世栄玲奈は切り替えが早いなと思ったが言わないことにして「うーん…いい人…」とそのまま考えてみたが、思いつかなかった。
東花海は「お客でいい人。いない?」と言う。
世栄玲奈は「そんなうちは結婚相談所じゃ無いから」と言った。
その時だった、軍服を着た男性がラジオを持ってきた。
世栄玲奈は「ラジオの修理ですか?」と訊ねる。
その男性は「そうですね…」と答えた。
東花海は「ねぇねぇ、お兄さん。どこの所属?」と聞く。
世栄玲奈は引き気味に「花海やめなさい…」と言う。
その男性は「このラジオ、直りそうですか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「僕に直せないラジオはないので、ただ魔法石の故障だと1万リベルくらいは掛かっちゃうけどいいかな?」と言った。
その男性は「お金の方は問題ないので直して下さい」と言った。
世栄玲奈は「じゃあ、この修理依頼契約書にサインしてね?」と言った。
その男性は「じゃあ、お願いします!」と言ってサインをしてから去っていた。
東花海は言う。「軍人は最近、魔法界がきな臭いからすぐ死にそうだから嫌だわ」
世栄玲奈は「じゃあ、どうして声を掛けた…」と困惑した様子で言う。
東花海は「釣れるかなー?って思ってね」と言った。
世栄玲奈は「花海さんは容姿は良いんだから、もっと自分を高く見せないとね…」と言う。
東花海は「何よ?私がやすい女みたいに言わないでよ?」と言う。
世栄玲奈は「だって、男性に手当たり次第に声を掛けていたら、そりゃそう言われても…」と答える。
東花海は「そうね…。もうちょっと方策を考えてみるわ…」と言った。
次の日も、東花海は世栄玲奈のラジオ修理工房に来た。
世栄玲奈は「今日こそはラジオの修理?」と声を掛ける。
東花海は「今日こそは、相手から話し掛けてもらえるのを待つんだ!!」と言った。
世栄玲奈は「まぁ、頑張りな…」と思ったことがあったが、言わなかった。
あれだけ綺麗だと、男性側も尻込みししてきっと話し掛けては貰えないでしょうね…。
世栄玲奈はそう思った。
すると、一人の女性がお店に入ってきた。
小柄でかわいらしい女性だった。
世栄玲奈は言う。「いらっしゃいませ」
その女性は言う。「普通のラジオって直して貰えますか?」
世栄玲奈は「普通のラジオでも歓迎ですよ」と言った。
その女性は「よかった…」と言って古い短波ラジオ机の上に置いた。
世栄玲奈は「じゃあ、この修理依頼契約書にサインにしてね?」と言う。
その女性は「いくらくらい掛かりますか?」と言う。
世栄玲奈は「うーん、状態によるけど…、1万リベル以上掛かるなら買い直した方が安いので、そうなるようだった電話を一回入れますね?」と言った。
その女性は「ありがとうございます。よろしくお願いします」と言って控えを持ってお店を後にした。
お昼の時間だった。
世栄玲奈はお昼を食べる前に昨日受けたラジオの修理で、それが無事に直ったのでそれをお客に電話をする。
相手は「もしもし…」という感じで電話に出た。
世栄玲奈は「ラジオ修理工の世栄って申しますが、秋田さんの携帯電話で間違いないですか?」と言う。
相手は「そうですね。秋田です。ラジオが直ったんですか?」と答える。
世栄玲奈は「直りましたので、いつでも良いのでお暇なときに取りに来て下さい」と言う。
秋田淳二は「そういえば、いくら用意すれば良いですか?」訊ねてきた。
世栄玲奈は「一般的な形の魔法石の故障だったので、1万リベルですね。」と答えた。
秋田淳二は「分かりました。今日の夕方にお伺いします」と言った。
世栄玲奈は「今日の夕方ですね。分かりました。お待ちしております」と言って電話を切った。
そして、やっとお昼ご飯を食べる世栄玲奈。
東花海は既に食べ終わっていった。
世栄玲奈も食べ終えてから、歯を磨いてお店を再開した。
夕方くらいになって、お店のドアが開いた。
秋田淳二が直ったラジオを取りに来た。
世栄玲奈は「修理明細書です」と言ってそれを渡す。
秋田淳二は財布から1万リベル紙幣を取り出した。
世栄玲奈は「はい、ちょうどいただきます」と言って直ったラジオを取りだして秋田淳二に渡す。
秋田淳二は「ありがとうございました」と言い、そのままお店を後にした。
東花海は言う。「話し掛けて貰えなかった…」
世栄玲奈は「軍人は忙しいだろうからね…」と言った。
そして、そのまま世栄玲奈はお店の奥に行って、昨日受けた普通のラジオを直すために、半田ごてを握っていた。
ある程度バラしてあったので、あとは基板の故障箇所を特定するだけであった。
世栄玲奈はおかしなコンデンサを見つけた。
やっぱり、もう容量が無くなっていた。
世栄玲奈は店にあるコンデンサから適合するのを探して、膨らんだコンデンサを外してから新しいコンデンサと交換した。
この修理だったら600リベルで良いだろう。
そして、直ったかどうかの受信テストをして直った事を確認したので、世栄玲奈は昨日依頼をしてきた女性に電話を掛けた。
世栄玲奈は受話器を取り、番号を打ち込んだ。
相手は「もしもし…。」という感じで電話に出た。
世栄玲奈は「ラジオ修理工の世栄と申しますが、白河さんの携帯電話で間違いないですか?」と言う。
白河シロナは「そうです、白河です。ラジオが直ったんですか?」と言った。
世栄玲奈は「直りましたので、都合の良い日に取りに来て下さい」と言った。
白河シロナは「そういえば、費用はいくら掛かりますか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「コンデンサの交換だけなので600リベルですね」と答えた。
白河シロナは「分かりました」と答えた。
次の日、朝からお店を開ける世栄玲奈。
開店して一番に、白河シロナが来た。
世栄玲奈は「お待ちしておりました」と言った。
世栄玲奈は修理明細書とラジオをカウンターに置いた。
白河シロナは「600リベルで良いんですよね?」と言った。
世栄玲奈は「そうですね、600リベル」と言って明細を確認した。
白河シロナは500リベル硬貨と100リベル硬貨をトレーに置いた。
世栄玲奈は「ちょうどですね」と言ってそれをレジスターにしまって、ラジオと明細書を白河シロナに渡した。
世栄玲奈は「またのお越しをお待ちしています」と言った。
お昼頃に、東花海が来た。
世栄玲奈は「また、ここで相手探し?」と皮肉交じりに言う。
東花海は言う。「ダメ?」
世栄玲奈は「ここよりカフェとかの方が人が多くない?」と言う。
東花海は「カフェで出会った奴、総じてクズだったし…」と言う。
世栄玲奈は「あぁそう。でも、ここで出会った相手も僕は性格までは保証しないけど…」と言う。
東花海は「どうして!!!玲奈まで私を拒絶するの!?」と言う。
世栄玲奈は「まぁ、そういうつもりは無いけど、営業妨害であるのは事実だし…」と素直に言ってしまった。
東花海は「みんな、私にばかり冷たくあたる…」と言って泣き出した。
世栄玲奈はコーヒーを淹れて、花海の横に置いた。
世栄玲奈は「今日もなんかあったんですか…」と言った。
東花海は「私の頭を撫でてよ…」と言う。
世栄玲奈は「いきなり…。とりあえず撫でれば良いですか?」と言って、東花海の頭を撫でる。
すると、東花海は世栄玲奈の手に噛みつく。
幸い右手だったので、商売道具の方では無かった。
世栄玲奈は「痛い痛い!!!手は僕の商売道具だからやめて!!!」と言う。
東花海は噛みつくをやめたが言う。「左利きなら、商売道具は左手では?」
世栄玲奈は「どっちも商売道具だよ!!!」と言った。
東花海は「ごめんなさい…私ったら…相手探しが上手くいかないからって、つい玲奈さんに八つ当たりを…」と再び涙目になっていた。
世栄玲奈は「分かったから、話を聞くから、だから頼むから泣かないで!!!」と言った。
東花海はコーヒーを飲んでから言う。
「この歳で一度も結婚などしてないのは、異常だって言われたんだよね…」
世栄玲奈は聞いていた。
東花海は「私だって、いい人はいたよ?だけど、魔法界から移住してきた奴に相手を取られた挙げ句に今まで見つけた良さそうだなと思った奴は総じてクズばっか。その上、私に近づいてくる奴、お金目当てだったり能力目当てだったりで総じて本当の私を見てくれないのよね…」と言った。
世栄玲奈は聞いていた。
東花海は言う。「どうすれば良いの私は?」
世栄玲奈は恋愛経験なんて無かった。
世栄玲奈は「僕は恋愛なんてしたこと無いからねぇ…」と答える。
東花海はいきなり「誰も力になってくれないし…こんな人生なんてやめるわ…」と言ってお店を飛び出した。
世栄玲奈は慌てて店の戸締まりをして、東花海を探す。
過去の反応的に菅原涼太は頼れないだろう。
斗南華を呼ぶと東花海は余計にヤケになるなだろう。
世栄玲奈は一人で探すしか無かった。
世栄玲奈は近くの川に掛かる橋に行った。
橋から下を見下ろす。
それらしい人影を見つけたので、世栄玲奈は慌てて橋から飛び降りた。
魔法を使って軟着地にするのも忘れなかった。
世栄玲奈は「花海さん、諦めるにはまだ早いです」と言う。
東花海は「でも、玲奈さんだって力になってくれないじゃない…」と言う。
世栄玲奈は言う。「僕だって恋愛経験があれば力になりたいですよ」と言う。
東花海はザブザブと川に入っていく。
それを追いかける、世栄玲奈。
冬の夜のカラメリア川の水はとても冷たかった。
東花海はそれでも川の深い方へと歩みを止めない。
世栄玲奈の足は冷たくて限界だった。
世栄玲奈はそのまま引きずられて、川に全身が入った。
遠のく意識。
死すらを覚悟した世栄玲奈だった。
世栄玲奈は目を覚ます。
幸いあの世では無い様だった。
たぶん天井的に病院だろう。
世栄玲奈は言う。「東花海は…」
しばらくして、病室のドアが開いた。
東花海が入ってきたのだった。
東花海は世栄玲奈の姿を見るなり、「私の所為で…」と言って泣き出した。
世栄玲奈は「僕だって死にかけたんですよ?」と意地悪を言ってみた。
東花海は「本当にその節はごめんなさい…」と言った。
世栄玲奈は言う。「今は誰が店番をしているんだい?」
東花海は「こんな時まで、仕事のことを考えているの?」と言う。
世栄玲奈は「ラジオの修理は生きがいだから…」と言った。
しばらくして医師が来た。
医師曰く「目を覚ましたのは奇跡」らしい。
目を覚ましたと言うこともあって、2-3日中には退院が出来るということになった。
退院の日。
東花海は車を用意してくれた。
世栄玲奈は言う。「意外に気が利く」
東花海は「意外には余計だわ」と言う。
世栄玲奈は「ごめん」と言った。
世栄玲奈は東花海の運転する車で、自分のお店へと向かった。
世栄玲奈は裏口からお店に入る。
すると、待ち構えていたかのように菅原涼太と斗南華と菅原涼華が居た。
三人は言う。「退院おめでとう」
世栄玲奈は「みんなありがとう」と言う。
遅れて表から、東花海が入ってきた。
菅原涼太と東花海は鉢合わせて気まずそうな顔をした。
東花海は言う。「私、帰るわ…」
斗南華は言う。「待って」
菅原涼太は「ほっておけ…」と呟いた。
そして、お店が通常営業になったある日。
朝から東花海は店に来た。
世栄玲奈は言う。「今日はラジオの修理?」
東花海は「今日こそは相手探しよ」と言う。
世栄玲奈は聞こえないように小さく溜め息を吐いた。
東花海は「今?溜め息、吐いたよね?」と言う。
世栄玲奈は「溜め息なんて吐いてませんよ?」とごまかした。
その時だった、鮎田海翔がノートPCの修理のためにお店に訪れた。
世栄玲奈は「鮎田さん久しぶりじゃないですか」と言った。
鮎田海翔は「またノートPCの修理を頼んで良いですか?」と言う。
世栄玲奈は「ノートPCの修理でも大歓迎ですよ」と答えた。
鮎田海翔は「そこに座る美人さんは知り合い?」と世栄玲奈に聞く。
世栄玲奈は言う。「この店で白馬の王子様を探す物好きな女性なんだけど…、なんて言えば良いのわからないけど」
世栄玲奈の目は明らかに笑ってなかった。
鮎田海翔はおそるおそるその銀髪の麗しき女性の隣に座った。
東花海はマシンガンのように話す。
鮎田海翔は急に立ち上がり言う。「そんなんだから、モテないんですよ!!!!」
思わず固まってしまう、東花海だった。
世栄玲奈は東花海の肩を叩き、コーヒーを置いた。
次の日、ノートPCが無事に直ったので世栄玲奈は鮎田海翔に電話をして、夕方には取りに来るという事らしい。
鮎田海翔は時間通りに世栄玲奈のお店に来た。
東花海は鮎田海翔に話し掛けようとするが鮎田海翔はそのまま無視して、世栄玲奈いるカウンターへ向かった。
世栄玲奈は「一部基板の故障だったから、5000リベルです」と言った。
鮎田海翔は「これでも新品を買うよりはかなり安いからね?いつもありがとう」と言い5000リベルを5000リベル紙幣で世栄玲奈に渡した。
世栄玲奈はレジスターに5000リベル紙幣をしまって、直ったノートPCを渡した。
東花海は帰り際も鮎田海翔に話し掛けようとするが、また無視をされてしまった。
世栄玲奈は「あれじゃ嫌われるよ…」と言う。
東花海は「じゃあ、どうすれば…」と言う。
世栄玲奈は「初対面にマシンガントークはダメだな」と言った。
東花海は「分かったけど…、どうすれば仲良くなれますか…?」と言う。
世栄玲奈は「僕だって恋愛経験は無いから、これ以上は求めないで」と言った。
東花海は「でも…」と言っていたが、世栄玲奈はちょうど来たお客さんの対応を始めた。
そのお客さんはおそらく軍人だった。
「魔法ラジオを直せると聞いて、ここまで来た」
世栄玲奈は「どんなラジオですか?」と言って、現物を見せてもらうことにした。
それはRD-1280CFだった。
世栄玲奈は「直りはしますが魔法石がダメな場合、魔法石として使われるダイヤ型のルビーが他の規格品より小さいので、そのダイヤの在庫があれば2万リベルで直せますが、無い場合は小ロットを頼まないといけないので、3万リベルくらい掛かってしまいますが、それでも直しますか?」とその軍人だと思しき青年に聞いた。
その青年は悩んでいた。「うーん、新しいの買った方が安いけど…、祖母からもらった思い出の…」
世栄玲奈は「ラジオは想いを繋いでいくって言いますから」と言った。
その青年は「ルビーの在庫はありますか?」と聞いていた。
世栄玲奈は「前回に直したときのダイヤ型のルビー在庫があるか確認してきます」と言い、バックヤードに行った。
世栄玲奈は戻ってきて言う。「ルビーの在庫あるので、2万リベルで直せそうです!魔法石の故障だったとしても」
その青年は「もし、同調回路も壊れていたら…」と言う。
世栄玲奈は電卓を出して、「仮に両方壊れていたら、魔法石が2万リベルと回路修理が3千リベルなので…、2万3千リベルですね」と電卓を見せた。
その青年は「本当にそれだけ出して直るのですか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は「僕に直せないラジオはないので」と答えた。
世栄玲奈は「直されるなら、修理依頼契約書を持ってきますが…」と言った。
その青年は「お願いします」と言ったので世栄玲奈は修理依頼契約書(ラジオ用)を持ってきた。
世栄玲奈は「よく読んでからサインをお願いします。質問等あれば、どうぞ」と言った。
その青年はサインをした。
在川浩二というらしい。
在川浩二は言う。「いつくらいに直りますか?」
「早くて明後日くらいかな…」と世栄玲奈は言う。
在川浩二は手帳を見て「確実に明後日に直りますか?」と言う。
世栄玲奈は「もしかして、使うご予定がそれ以降にあるって事ですか?」と聞く。
在川浩二は「そうですね…」と言う。
世栄玲奈は「間に合わない場合は連絡するので店に来て下さい。予備の魔法ラジオをお貸しします」と言った。
在川浩二は「何から何まで助かります」と言って、お店を出て行った。
世栄玲奈は東花海に言う。「あの人、めっちゃいい男だけど…、話し掛けなくて良かったの?」
東花海は「軍人は死んだときが悲しいから」と答える。
世栄玲奈は「なんで、死ぬ前提なの…」と困惑した。
夕方頃、再び鮎田海翔がスーツを着てお店に来た。
世栄玲奈は「直したノートPC。何か問題がありましたか?」と聞く。
鮎田海翔は「そういえば、ラジオを直すのが本業と聞いたので…直して欲しいラジオがあって…」と言う。
世栄玲奈は「どんなラジオですか?」
鮎田海翔は胸ポケットから小さい魔法ラジオを取りだした。
世栄玲奈は「魔法石がダメだったら1万リベル以上は確実に掛かってしますが問題ないですか?」
鮎田海翔は「問題ありません」と言った。
世栄玲奈はラジオ用の修理依頼契約書を出して、「よく読んでからサインして」と言った。
鮎田海翔はしっかりと目を通した様子だった。
そして、鮎田海翔はサインをした。
鮎田海翔は「これでいいですか?」と言う。
世栄玲奈は「問題ありません」と言って、控えの方を鮎田海翔に渡した。
東花海は鮎田海翔に何とか話し掛けようとするが、完全に無視されてしまった。
世栄玲奈は「やめといた方が傷つかないと思います」と言った。
東花海は「でも、軍人は…」と言う。
世栄玲奈は「軍人でも100%死ぬわけじゃ無いからさぁ…花海にお似合いだと思うんだけどなぁ…在川さん…」と言う。
「花海が手を出さないなら、僕が…」と世栄玲奈は言う。
東花海は黙ってしまった。
世栄玲奈は在川浩二から預かったRD-1280CFの魔法石を見た。
受信テストをしてみるが、魔法ラジオだけ受信が出来ない。
RD-1280CFからダイヤ型の魔法石を取りだして、魔法を込めた新しいルビーと交換して受信が出来るか、どうかを試してみた。
受信が不安定だった。
世栄玲奈は「こりゃ、同調回路もダメだな…」と言って同調回路もフラックスを塗って半田ごてで剥がして、残った半田を吸い取り線で拭いてフラックスを再び流して、半田で新しい同調回路を付けた。
そして、フラックスを洗った。
RD-1280CFとはいえども同調回路は汎用品だ。
綺麗に受信が出来ることを確認した。
世栄玲奈は修理明細書を書いた。
2万3千リベルと。
一個の直しついでに、鮎田海翔から預かったポケットタイプの魔法ラジオを開けてみた。
一般的な円筒型のルビーをはめ込んだ小さめ魔法ラジオである。
製造された年代的に魔法石は生きていそうなので、同調回路を疑った。
同調回路を交換したら、受信は出来るが何故か通常よりもノイズが多い。
仕方ないので魔法石も変えた。
無事、綺麗に受信が出来るようになった。
鮎田海翔の持っていたラジオの魔法石を見てみた。
魔法がかなりすり減っていた。
世栄玲奈は「なんでだろう…」と首をかしげた。
次の日、世栄玲奈はいつもの時間にお店を開けた。
そして、昼を狙って世栄玲奈は在川浩二に電話を掛けた。
東花海はまだ来てない。
在川浩二は「もしもし…」と答える。
世栄玲奈は「ラジオを修理工をしている世栄と申しますが、在川さんの電話でよろしいですか?」と言う。
在川浩二は「在川です。ラジオが直ったんですね!!」と言った。
世栄玲奈は「直りました」と答えた。
在川浩二は「いくら、掛かります?」と言う。
世栄玲奈は「2万3千リベルですね。暇なときに取りに来て下さい」と言った。
在川浩二は「今日の夕方に取りに行きます」と言って、電話を切った。
世栄玲奈はもう一回、受話器を取って電話番号を打つ。
鮎田海翔へと電話を掛ける。
鮎田海翔は「もしもし、世栄さん?」と言う。
世栄玲奈は「世栄です。ラジオが直りました。暇なときに取りに来て下さい」と言った。
鮎田海翔は「いくら掛かりますか?」と聞いてきた。
世栄玲奈は修理明細書を見て「1万リベルで大丈夫です」と言った。
鮎田海翔は「今から取りに行きます!!」と言った。
世栄玲奈は「わかりました。お待ちしております」と言って電話を切った。
しばらくして、鮎田海翔が来た。
続けて、東花海も来た。
世栄玲奈は鮎田海翔に「これが預かったいたポケットタイプの魔法ラジオですね。魔法石の故障だったので、1万リベルです」と言う。
鮎田海翔は5000リベル紙幣を2枚出した。
「ちょうどいただきます」と言って世栄玲奈はそれをレジスターにしまった。
そして、鮎田海翔にポケットタイプの魔法ラジオを渡した。
世栄玲奈は「またのご来店をお待ちしております」と言って手を振った。
東花海は「あ~」と声を上げる。
世栄玲奈は驚く。「いたの!?」
東花海は「鮎田さんのちょっとあとくらいに来たわ」と言う。
世栄玲奈「来たなら、声くらい掛けてくれても良いじゃない??」と言う。
東花海は「いや、忙しいそうだったから…」と答えた。
世栄玲奈は言う。「在川さんは夕方だって」と言った。
東花海は「夕方まではとりあえず、居ようかな…?」と言った。
少し外が暗くなってきた、そろそろ夜だというときに在川浩二は来た。
在川浩二は言う。「遅くなってごめんなさい…」
世栄玲奈は「あー、大丈夫だよ~。まだ全然開店中ですし」と言った。
在川浩二は「2万3千リベルで良いですよね?」と聞いてきた。
世栄玲奈は修理明細書を見て、「そうですね、2万3千リベルです」と答えた。
在川浩二は1万リベル紙幣2枚と千リベル紙幣を3枚出して世栄玲奈に渡す。
世栄玲奈は紙幣を数えて、「ちょうどですね。ありがとうございます」と言いそれをレジスターにしまって、RD-1280CFを在川浩二に渡した。
東花海は帰ろうとする、在川浩二に声を掛ける。
「一緒にお茶でもどうですか?」
在川浩二は「嬉しいけど、明日も早いしまた今度お願いします。連絡先を聞いて良い?」と言う。
東花海は「よろこんで!!!」と言って連絡先を在川浩二と交換した。
それからしばらくして、在川浩二と東花海はめでたく結婚することになった。
世栄玲奈のお店に斗南華が来た。
斗南華は世栄玲奈のお店の様子を見て言う。
「なんか、変わったことあったでしょ?」
世栄玲奈は「なんか、ここが縁結びの神社みたいに言われようになってしまったから…。僕ちょっと困っているんだよね…」と言い苦笑いした。
斗南華は言う。「ラジオの修理を頼んで良い?」
世栄玲奈は答えた。「はい、よろこんで!!!」