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聖痕の聖騎士〜溺愛?狂愛?私に結婚以外の選択肢はありますか?〜  作者: 白雲八鈴


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99 これは奇異なこと

 ブツブツと文句を言っていたファルだが、体は休息を求めていたようで、結局、私の意見が通ることになった。


 私は相変わらずルディに抱えられ、ワイバーンの背中に乗って、今日も空の旅人となった。一日遅れとなってしまったが、ルディが第10部隊の方に連絡を入れてくれたらしい。しかし、その時の向こうの様子がおかしかったらしい。何かあったのだろうか。

 まぁ、それは直接現地に行けばわかることだからいいか。


 ルディのワイバーンに並走するように飛んでいるのは、ファルのワイバーンだ。その背には茨木童子が鞍に腰掛け、手綱を持っているが、その背後には腕組みをした酒吞童子が立っていた。

 そう、ワイバーンの上で立っているのだ。私は散々怒られたのに酒呑童子は怒られないのだ。これは彼らが鬼だからだろうか。差別はいけないと思う。

 私も立っていいと思う。だから、そんなにぎゅうぎゅうにお腹を絞めないで欲しい。空からキラキラエフェクトが降り注ぐ事態になるかもしれないじゃないか。


「おかしい」


 突然、ルディがぽそりと声を漏らした。


「何がおかしいの?」


「本当なら、この辺りから常闇が見えるはずだ。なのに見えない」


 どういうことだろうと、私は辺りを見渡す。遠見の魔術を使って前方方向を視る。


「ルディ。あの川のところに聖騎士の隊服を着ている人がいる。聞いてみる?」


 遠くに川が見えるのだけど、その川沿いに数人の薄い灰色の隊服を着た人が見られた。恐らく騎士(シュヴァリエ)だろう。


「イバラキ!少し寄り道をする」


 ルディは茨木童子に声を掛けた。今、ワイバーンの手綱を握っているのは彼だからね。青白い髪をなびかせた麗人と言っていい姿になった茨木童子は片手を振って了承の意を現した。

 私達は遠くに声を届ける響声の魔術を使えるが、彼らにその術はないので、事前に意志を伝える手段を決めていたのだ。


 そして、ルディはワイバーンを操り、私が指ししめた、少し北寄りの進路を取りながら高度を落としていった。



 上空から近づく私達を見上げている隊員の様子をみるが、変異種のオーガの探索をしているというよりも、まるで遠足に行っている子供のように浮足立っているように思える。


「第13部隊長のシュレインですが、ここにありました常闇について何か知りませんか?」


 胡散臭い笑顔のルディがワイバーンを空中でホバーリングさせながら尋ねた。すると、この班をまとめていると思われる人物が一歩前に出て敬礼の姿勢をとった。


「はっ!昨日聖女シェーン様が暗闇になった世界に明かりを灯し、常闇を封じられました」


 え?常闇が閉じられてしまった!そこから酒呑童子と茨木童子を還そうと思っていたのに!


「聖女様が?」


 ルディが不可解だという顔をしているが、騎士(シュヴァリエ)たちは気づかず、口々に神々しかったとか、流石聖女様だと賛辞の言葉を並べている。これは本当にあったことのようだ。

 しかし、私は首を捻ってしまう。


 いや、これは私には関係が無いことだ。聖女の彼女とは関わることなのない。


 私はルディの腕と叩いて、ここを立ち去るように意志を伝える。要は聖女の彼女が役目を果たしたということだ。それは喜ばしいことでもある。


 再び高度を取ったワイバーンは本来常闇があった場所を目指した。だけど、私は近づく度に心の中のモヤモヤが酷くなってきた。おかしすぎる。


「ルディ。これはしてやられたかもしれない」


 私はただ森が広がっている眼下を見て言った。何もない。ただ、青々とした森が広がっている場所だ。

 私の頭上からギリリと歯を噛みしめる音が聞こえる。ルディも気がついたのだろう。


「これは奇異なことですね」


 茨木童子から言葉が漏れた。そう、あり得ない事が起きているのだ。


「こんなに離れた場所にアンジュ様のお力が満ちているのですね」


 茨木童子が言った通り、この場には私の魔力が辺り一帯に漂っていた。普通なら、こんなに自分がやらかしましたなんて示すようなやり方はしない。


「『風渦(ヴァンヴィーテ)』」


 私はこの一帯にある私の魔力を風の渦で吹き飛ばす。まるで私が常闇を閉じたかのような魔力を跡形もなく吹き飛ばした。


「アハハハハハ。そういう事、おかしいと思っていたんだよ。私、なるべく最小限の魔力で術を使うようにしていたのに、倒れるまで魔力が無くなるだなんて」


 こんな力の無駄遣いのような、下手な魔力の使い方なんて私はしない。こんな魔力が辺りに残存するほど無駄遣いするなんて、子供のすることだ。


 胸くそが悪い。大体のからくりも理解できた。あの聖女だ。あの聖女の所為だ。

 はぁ、でも予定が狂ってしまった。


「ごめん。酒吞、茨木。還す穴が閉じられてしまったみたい」


 私は二人に謝った。ここからなら確実に彼らがいた場所に帰れると思ったのだけど、他の穴だとその保証ができない。だから、謝った。


「別に葦原中国に固執しているわけじゃねーしな」

「元々好き勝手にしていましたから、帰れないというなら、それも面白きことでしょう」


 ワイバーンの上に立ち、腕を組んで眼下を見下ろす赤髪の武人という出で立ちであり、右半身の入れ墨をこれみよがしに見せ付けている酒吞。

 微笑みを浮かべ、青白い長い髪を風になびかせた麗人の茨木。

 その姿は人にしか見えない。これからの、彼らの処遇を考えなければならない。



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