97 少しは羞恥心というモノを持て
『チチチチッ』
『ピルルルゥー』
鳥の鳴き声がする。もう朝?
···あれ?私いつ寝たのか記憶がない。ボケ始めた!
パチリと目を開ける。あ、うん。ここ最近の見慣れたルディの寝顔が目の前にあった。
視線を周りに向けると、見覚えのない部屋だ。私、この部屋に入った記憶は無いよ?
おかしいなぁ。眠る前の最後の記憶をたどってみる。
·····私、気絶していた!それもあり得ない魔力の枯渇で!
あれは、ないよね。私の魔力って相当量あるはずだもの。王都は50平方キロメルある巨大都市だけど、私はその王都を壊そうと思えば壊せる魔力量は保有している。
王都って広いよね。それは馬に乗らないと移動出来ないよね。
そんな私の魔力が枯渇したのだ。だから、あり得ない。その魔力量は何処に消えてしまったのか。確かに天使の聖痕は使っていた。けれど、聖痕の発動に必要なのは発動キーである言葉のみ。魔力は使用しないのだ。
おかしすぎる。でも、わからないものは、わからない。この事を考えるのは今じゃなくてもいい。
現実的問題はルディに確認してみないとわからないのだけど、ルディのご機嫌は戻ったのかな?というか、おかしな言動は治ったのかな?あの時のルディは流石におかしかった。魔王様のルディも恐ろしいけれど、おかしな言動をするルディは気味が悪かった。
「ルディ、おはよう」
恐らく起きているであろうルディに声を掛けてみる。グフッ。締め付けが強く···
「ぐ、ぐるしい」
強すぎる。逃げ出そうと身を捩るが動けない。
「力強すぎ」
すると力が緩み、黒い瞳が私を伺うように見る。
「アンジュ。気分はどうだ?」
「魔力は完全復活したから、元気だよ?あれから、どうなったか聞きたいのだけど?·····あ?」
ルディが力を緩めてくれたので、私は起き上がろうとベッドに手を付いた時に違和感を感じた。その違和感を感じた左手を視線の先に持っていくと、新たな腕輪が付けられ、そこから鎖が伸びていた。
伸びた先が何処に繋がっているか、知りたくないので、右手で『溶解の毒』を作り出し、腕輪を溶かし、バキッと破壊する。
「ルディ、物理的拘束具は駄目だよ」
私はルディを睨みつけ文句を言う。しかし、ルディの視線は壊した腕輪に向けられていた。
「前回もこのように破壊したのか?」
物理的監禁物も破壊しましたが、何か?
「はぁ、アンジュ。もう少し常識的行動をとって欲しい。前回、ワイバーンから飛び降りるなと言ったはずだが、聞いていなかったのか?」
聞いていたよ?でも、あの彼ら速さだと2刻もしないうちにジジェル?の街にたどり着きそうだったし、早めに対処したほうがいいに決まっているよね。
「ワイバーンから飛び降りてはいけないってことはわかっているけど」
「けど?」
「時と場合によるかな?」
「誰がこの辺りの山より高いところから飛び降りようとするんだ?」
スカイダイビングとか?は!そうかこの世界にスカイダイビングという娯楽はないのか!それは、非常識だったかもしれない。
まぁ、答えとしては
「わたし」
そう言ってへらりと笑う。すると、盛大なため息を吐かれた。
「はぁ、できれば俺がついて行ける行動にしてほしい」
そして、またしてもぎゅうぎゅうに抱き締められた。いや、できれば私が息ができる強さにして欲しい。苦しさを訴えるためにルディの胸板をバシバシ叩く。
「いつまで寝てーんだ!」
突然、ドアがバキッと破壊される音と共に侵入者が入ってきた。あれ?この声は?
「酒吞、引き戸ではない扉を無理やり開けたので壊れてしまいましたよ」
あ、彼らがどうしているか聞きたかったのだった。普通にこちらの言葉で聞き取れるということは、翻訳機能はきちんと仕事をしているようだ。
「なに、勝手に入って来ているんだ」
ふぉ!地獄から響いてくるような声がすぐ側から聞こえてきた。
「腹が減った」
「副官と名乗る客人が来られていますよ?」
ん?
「シュレイン!無事か!」
ファルの声が!どういう事?ファルに声をかけようにも布団をかぶらされ、周りがなにも見えない状態にされてしまった。
「ああ、問題ない」
「問題ないって、一瞬だったが、あれはあの時と同じだったじゃないか」
なんの話?離れていたはずのファルが、何が同じだったとわかるのだろう?
「アンジュがいてくれたから大丈夫だった。まぁ、原因もアンジュだったが」
「で、そのアンジュは····そこか?アンジュ、何をしでかしたんだ?」
何故に私が何かをしたと決めつけるのか!いや、恐らく私が悪いのだろうけど、何も知らないファルに言われたくない!
イラッときた私は被された布団を押しのけ、起き上がる。
「私が全部悪いみたいに言わないでほしい···うぎゃ!」
文句を言っている途中で引っ張られ再びベッドの上に仰向けになったところで、布団が降ってきた。一体何!
「アンジュ。少し大人しくしておくように」
「アンジュ。慌てて入ってきた俺も悪いが、そこから出てくるな」
「何故に?!」
私の寝癖が酷いから?いや、ルディが構うようになってから、正確にはルディから髪の手入れをされるようになってから、寝癖もつかないほどスルリンという感じの髪質になってしまった。
それとも、私の格好がおかしい?布団の中で確認してみるけど、いつも寝ているときに着ている寝間着···じゃなくて下着のキャミソールワンピースだ。何も問題ない。
では何が駄目なのだろう?
「少しは羞恥心というモノを持てよ、アンジュ」
ファル!それはどういう事!はっ!まさかよだれの跡がついているとか?それは恥ずかしい。
「よだれの跡が?!」
「違う!その格好の事だ!はぁ、シュレイン。隣の部屋で待っているから、アンジュを着替えさせて来てくれ」
この格好のどこが駄目なのか····は!そうか、最近食べ過ぎで子豚化している私が見るに耐えないということか。それは食べ物を私に突っ込んでくるルディに文句を言って欲しい。
「ルディ。やっぱり最近食べ過ぎだと思うよ。ファル様に太っていることを遠回しに言われたよ?」
布団の中で愚痴っていると、またしてもため息を吐かれてしまった。
「はぁ、アンジュはまだ痩せすぎだ」
何処が!!




