92 仲が良いのだな
謎は一つ解けた。あの侍従はエリートコースまっしぐらだったのだ。将来を約束されており、団長を顎で使えるほど偉かったのだ。流石、王族の血筋というもの。
いや、所詮世の中とはそういうものだ。いくら努力しようが、自分の計り知れないところで、全てが回っているということ。
「じゃ、先々代の大将校に魔鳥を持って帰れって言うのは駄目なの?」
するとルディは困ったように答えた。
「誰がそんなことをリュミエール神父に言えるんだ?」
「は?」
先々代の大将校が神父様?それって····
「絶対に神父様の嫌がらせだよね。『聖騎士とあろう者が寝坊とは、些か職務怠慢ではないですかね』とか言ってウキョー鳥を置いて行ったってことだよね」
そうだ。そうに違いない。あの悪魔神父なら自ら魔鳥をどこかから調達してきて、宿舎のどこかで飼うようにしたってことだと、私は考察する。
「だったら、私が文句を言う!私の安眠を妨害するウキョー鳥を絞め殺していいかって!」
あの奇声で毎日叩き起こされるなんて、逆に精神が病みそうだ。睡眠は大事だ!
「アンジュは····アンジュは」
ん?
「そんなことをリュミエール神父に言える程、仲が良いのだな」
ぐっ!苦しい。
ルディの胸板に押し付けられる様に抱き締められる。両手を突っ張ろうにも全く動く事が出来ない。動く事ができない?!
「昔からリュミエール神父に対しては態度が違ったよな。それにその指輪も嬉しそうにリュミエール神父から受け取っていたしな」
神父様は要注意人物だと初めからわかっていたから、怒らせないようにしていただけで、好意なんて全く持っていないよ!
「エヴォリュシオンの3男が言っていたそうじゃないか。リュミエール神父の部屋によく出入りしていたとか、一緒に出掛けていたとか、どういうことだ?アンジュには俺がいるのに?」
ぐっ·····死ぬ。マジで死ぬ。何だかわからない高圧的圧迫感が私を絞め殺そうとしている。
高圧的圧迫感···まさか!
「『魔力遮断!!』」
ルディの魔力を外に出さないように、私の魔力で覆った。
息がやっとまともに吸えるようになる。ルディの魔力の放出だけで、死にかけるって何!どれ程魔力を保持しているの!
それにしても
「エボって誰!」
「この前、アンジュが将校に成ったことに対して、文句を言って逆にアンジュにボロ布の様にされたヤツのことだ」
ああ、ゼクトなんたらかんたらの家名の事。ん?あの時の話を何でルディが知っているのだろう?
「それって、ゼクトと控えの間にいた時の話だよね?何でルディが知っているの?」
そう、あの時の祭壇に繋がる控えの部屋には、3人しかいなかったはず。ルディの耳に入ることのない話だ。
「ああ、フリーデンハイドから聞いた。キルクスの新人がどういう者たちか知りたくて潜んでいたらしい」
何処に!!侍従がどこにいたの!
本当にあの人、性格悪い人だよね。あわよくば、人の弱みを握ろうとしていたのかもしれないよね。
「それで、リュミエール神父の部屋に出入りしていたというのはどういう事だ?」
うっ!瞳孔が開いた目で見てこないで欲しい。
「それは、冒険者たちと乱闘になった事のお説教や、仕事先の従業員をぶん殴ったことのお説教や単独でドラゴンを討伐したことのお説教で呼び出されたの!誰が好き好んで神父様の部屋でグチグチとお説教を聞いて反省文と課題を出されて丸一日監禁されたいと思うの!」
監禁は駄目だ。監禁は。あの胡散臭い笑顔の神父様がつきっきりで、逃げようとお手洗いに行きたいと立ち上がろうものなら、『部屋にお手洗いがありますよ』と言われる始末だ。絶対にあそこは監禁部屋だと思う。
「アンジュ。何をやっているんだ?ドラゴンを倒したと聞いたが、リュミエール神父から怒られることをしたのか?」
なに?その打って変わって呆れたような顔は?私は怒られることなんてしていない!
「別に、ツガイのドラゴンが街道に巣を作ってしまったから、聖騎士が討伐するまで、街道近くを通る商人の護衛任務を受けた時に、子供を攫っていくドラゴンを見つけたから、駆逐しただけだよ。
あれ、未だに解せないのだけど?子供を助けたと褒められるならまだしも、なんでドラゴンを倒したことで怒られないといけないのか全く理解出来ない。」
未だに私は解せないでいるのだ。人助けはいいことのはず!
「アンジュ。それは商人の護衛に専念すべきだったのではないのか?」
「武器商人のアルーさんは行って来いって言ってくれたのに?」
ルディは何故か遠い目をして『死神のアルージラルドか。それはアルージラルドの依頼を受けたことを問題視されたのだろう』と独り言を言っていた。




