82 焼き菓子もぐもぐ
多くの視線を集めながら、広い会議室の一番奥にたどり着いた。私はもう現実逃避をしたい気分だ。ルディが一番偉そうな人に軽く頭を下げたので、私もそれにならうが、この偉そうな人に対してどのような態度を取ればいいのか教えて貰っていない。
昨日、ルディとファルに聞いたけれど、ただいるだけでいいと言われて教えて貰っていない。
その人物は40歳ぐらいだろうか。隊服を着ていてもわかるほど、筋肉質な大柄人物で、撫で付けるように後ろに流した金髪に新緑の様な目をこちらに向けているが、その左目は眼帯に覆われていた。恐らくこの人物が団長なのだろう。
ルディが席につこうとしたので、右手を離そうと試みる。が、何が何でも離さないどという意志の現れか、私の手を繋ぐ力強さは変わらない。
折れた左腕も繰り出そうかと思案していると、偉そうな人物から声を掛けられた。
「そのままでいいから席につけ」
マジですか!!私は信じられないという顔をして、偉そうな人物に視線を向ける。その隙きを狙ってルディが私を抱え、席に着いた。私がルディの膝の上に座る形でだ。私はもう、現実逃避をしていいだろうか。
偉そうな人物は先日の続きを話し合うようにと言い、腕を組んで押し黙ってしまった。え?司会進行は誰ですか?疑問に思っていると。一斉にあちらこちらから意見が出てくる。意見···ただ自分達の利になることを各々が言っているだけだ。
そう、聖女を何処の部隊が面倒をみるかの話し合いだった。各部隊が自分の部隊で聖女を預かるという手前勝手な言い分を言葉を変えて言っているだけだ。とても、とても、つまらない会議だった。
それはルディも行きたくないというだろう。
私はポケットから焼菓子を取り出し、口にする。この前ルディの機嫌を取るために行った食材店に数種類のナッツが売っていたので、精米の失敗作である米粉と小麦粉と砕いたナッツを混ぜて作った焼き菓子だ。一口サイズに小さめに作ってあるので、食べかすをこぼすことはない。
「両側のポケットに何を入れているかと思えば、そういうことですか」
小声で話すルディが私のポケットに指を入れ、焼き菓子を抜き取っていった。耳の後ろで喋らないで欲しい。首筋がゾクゾクする。
普通なら私から食べ物を奪うなと言うところだけど、朝食を食べていないのはルディも同じだから、文句は言わないでおく。
焼き菓子をもぐもぐ食べながら、目の前の状況に意識を向けるも、先程と何も変わっていない。
焼き菓子を取ろうと右側のポケットに手をのばすと、手は油紙に触れるばかりで、焼き菓子の感触はなかった。あれ?15枚は一袋に入っていたはずなのに、私そんなに食べたかな?
左側のポケットから油紙の袋を取り出し、膝の上に乗せて中から一枚取り出して、食べる。後ろから手が伸びてきて2、3枚の焼き菓子を取っていった。お前か!!
すると、左側から大きな手が伸びてきたのを視界の端に捉えた。横目で見ると、新緑の目が物欲しそうな視線を向けてくる。
団長!!普通は注意をする側だよね。なんで、手の平を上に向けて差し出してくるの!威厳は何処にいった!
その大きな手を後ろから伸びてきた手がはたき落とす。
しかし、負けじと大きな手は差し出してくる。仕方がないので、5枚程を空になった油紙の袋にいれ、手のひらに焼菓子を乗せてあげた。
因みに席と席との間は目測で2メル程開いているので、私は体を傾けなければ、届かなかった。ルディは軽々と叩いていたのに。
私は油紙の袋に手を入れ焼き菓子を一枚抜き取ると、後ろから袋ごと取り上げられてしまった。何故に!!まぁ、ナッツが入っているので、小腹は満たされたから別にいいけど。
で、この無駄な会議はいつまで続くのだろう。そう言えばルディとファルは夜まで戻って来なかったな。ということは、この無駄な時間が夜まで続くということ?仕切る人はいないのか!なんで団長が仕切らない。
これなら、部屋に閉じこもって居たほうが断然マシだ。無駄かもしれないけど、ルディに聞いてみようかなぁ。部屋に戻っていいって。
しかし、ここで後ろを振り返って聞くわけにはいかない。はぁ。本当に
「時間の無駄」
思わず、心の声が出てしまった。奇しくも、誰も発言をしていないタイミングで心の声が漏れてしまった。私の声だけが会議室内を漂ってしまった。
そして、視線の集中砲火を浴びる。
しまった。声に出すつもりはなかったのに。
「どの辺りが時間の無駄なのかね」
油紙の袋をポケットに押し込みながら、隻眼の口の周りに食べかすをつけた団長が聞いてきた。あの焼き菓子は一口サイズなので、口の周りに食べかすなんてつかないはずだけど?
威厳は何処にいった!!
食べているところを見ていないが、ガタイのいいおっさんがリスの様にチマチマ食べている姿が浮かんでしまった。かわいいぞ団長。




