81 よし、二度寝しよう
今日は副部隊長としての初仕事。会議デビューなの。ドキドキ♡
脳内アナウンスを流してみたけど、会議というものにいい印象はない。上司にプレゼンして会議に上げてもらうことが決まり、全体会議でプレゼンするも揚げ足をとられ、否定されてばかりで結局却下されるという記憶しかない。
憂鬱だ。
そもそも、ここ最近、数日おきに会議をしているみたいだけど、そんなに頻繁にしなければならないことなの?
まぁ、私は黙って控えておけばいいだけの存在だからいいか。
しかし、朝から私の思考まで邪魔してくる、『ウキョー鳥』絞め殺したい。一度も実物を見たことはないけど。いったい何処にいるのすら未だにわからない。
そして、朝の攻防を始めようか、会議は10時からだから二度寝しようか迷っている。朝の攻防自体、精神的に疲れるのに最近は肉体的疲労も加わってくるので、非常に困っている。
よし、二度寝しよう。そして、できれば会議というものをボイコットしたい。
・
・
・
・
突如、ぞわぞわっとする感覚に襲われ、目が覚める。
「んーっん!」
ルディに寝込みを襲われている!!右手でルディを押しのけようとするけれど、逆に強く抱きしめられる。
絡みつく聖痕を排除しようと舌で押し返そうとすれば、聖痕の接触率が増え、ぞわぞわ感が増してしまった。
「ふっ、んっー!!」
ルディをバシバシ叩いて抗議するけれど、全くやめてくれない。ぞわぞわ感が大きくなってくる。
「うっ」
『トントントントン』
ルディの部屋側の扉がノックされ、ルディの動きが止まる。
『シュレイン。いい加減に起きろよ』
ファルの声が扉越しに聞こえてきた。え?もうファルが迎えにくる時間になっているの?
ルディの唇が少し離れ、名残おしいとばかりに、ついばむような口づけをしてルディは起き上がった。
「おはよう。アンジュ。もう少し堪能したかったのに残念だ」
いや、寝込みを襲うなよ。いや、その前に今は何時?壁掛けの魔時計を確認すると9時半!!
「ルディ!起きていたなら起こしてよ!」
そう言って私は慌てて飛び起きる。その勢いでベッドを降り、自分の部屋に繋がる扉に張り付く。
「アンジュの寝顔が可愛かったからつい」
「ついじゃない!」
私はルディに言い放って、自分の部屋に転がり込む。素早く白い隊服に袖を通して、身なりを整える。
朝ごはんを食べる余裕は無いので、クッキーを一枚口に放りこみ、水で流し込む。····そういえば、ずっと昔の記憶でプレゼン資料を作るのに徹夜して、朝ごはん抜いて会議に出て盛大にお腹を鳴らして恥ずかしい思いをしたことを思い出した。
あんな恥ずかしい思いは二度と御免だ。隊服のポケットに油紙の袋に入った焼菓子をそのまま突っ込み、携帯用の水筒に冷蔵庫で冷やしていたお茶をいれ、腰に下げる。刀を差している方に水筒を下げたので、多少不格好でも気にはならないだろう。
そして、急いで寝室の扉を開け、そのまま通り過ぎルディの部屋に繋がる扉を開ける。
「準備出来た!」
「遅かったな」
ファルがニヤニヤと笑いながら言う、遅かった?
「準備するのに5分もかかってない!」
教会では素早く準備をするよう徹底して教育されてきたのだ。身なりを整えるのに2時間掛けていた前世とは違う。
「髪を下ろしたままもいいな」
直ぐ近くでルディの声が降ってきた。髪?はっ!私に視界に白い隊服の胸元で揺れる銀髪が見える。
「髪を結い忘れた!」
「時間がないからこのまま行こう」
私は右手をルディに恋人つなぎにされ、部屋を連れ出されてしまった。
そして、私は白い外壁の3階建ての大きな建物に連れてこられた。一度、私が転移でぶっ飛ばされてきた建物だ。その時にここが聖騎士団の本部だと教えてもらった。
私は手を繋がれたまま建物の二階まで連れてこられる。いい加減に手を離してもらおうと、腕をよじるが余計に力を込められてしまった。
「離してもらえない?」
「このままで構いませんよ」
胡散臭い笑顔を浮かべるルディにそう言われたが、構うよ。隊長と副隊長が仲良しこよしで手を繋いでるっておかしすぎるよね。いや、そのまま扉を開けようとしないで。
扉が開けられると、ほとんどの席が埋まっている状態だった。それはそうだよね。ギリギリ会議が始まる時間に間に合ったのだから。
円卓の周りに12人の白い隊服を身につけた各部隊長だと思われる人達が席に付いており、その背後には副隊長と思われる人物たちが控えている。一番奥にはこの国の竜と太陽の図柄の国旗が掲げられ、その前には勲章を幾つも下げ、白と金が絶妙な感じで配分された隊服をきた大柄な人物が座っている。
そして、一つだけ空いている席がある。それも偉そうな感じで座っている勲章をジャラジャラとつけた人物の隣だ。
え?この視線の中、手を繋いだまま一番奥まで行かないといけないの?
あー、一度起きた私よ。なぜ、二度寝を選択してしまったのだ。




