74 聖女が見つかった?
「シュレイン。もともとは、そこのアンジュが悪い」
責任転嫁を私にしてきた。侵入してきた方が悪いに決まっている。
妹よ。この無礼者のどこがよかったのか、お姉ちゃんにはさっぱりわからないよ。
「この時間は食堂が開いていないというのに、食欲をそそる匂いを4階に充満させているのが悪い」
そう言えば、ここの簡易キッチンって換気扇がなかったよね。それは中廊下にスパイシーな匂いが充満するかもしれないけれど、それがドアを壊していい理由にはならない。私は食べ終わった皿をキッチンのシンクに置き、残ったカレーを鍋ごと冷蔵庫にいれ、ナンは油紙をかぶせておく。ラップが欲しいな。
「宿舎の各部屋にキッチンが備えつけられているのなら、作っては駄目ということはないですよね」
料理をすれば、少なからず匂いは出るものだ。こんな事で毎回ドアを壊されるなら、キッチンを宿舎につけなければいいのだ。
「そもそも、私の部屋に来て文句が言いたかっただけですか?それとも、食べているものを強奪しようと思ったのですか?」
腹が減っているということは、そういうことだよね。私から物を奪い取ろうとするやつは許さない。
「あ、いや。そういうわけでは」
第1部隊長はオロオロとしだした。そこにルディの手が伸びてきて、第1部隊長の胸ぐらを掴む。
「ロベル。外に出ろ」
そう言いながら、ルディは自分より大きな体のロベルを無理やり連れ出そうと、引きずりだした。
「待て、シュレイン。まさか、アンジュの部屋だとは知らなかったんだ。話し合おう。暴力は駄目だ。駄目だぞ!!」
第1部隊長はルディに強制排除されていった。無事に生きて戻って来れるように祈ってあげるよ。
私は身体強化をして壁に刺さった部屋の中扉を手にとって壁から引っこ抜く。それを元の位置に合わせて、蝶番の場所を合わせる。
「『修復』」
壊れた蝶番はこれで元通りになった。そして、部屋の入口の玄関扉に向かうと、ドアノブが壊されていた。酷すぎる。これも修復をする。
玄関扉を閉めて、鍵を掛ける。ガチャガチャとドアノブを回してみて、きちんと鍵がかかっていることを確認して部屋の中に戻ろうと振り返れば、私を見下ろすルディが居た。怖すぎる。
「アンジュ。枷はどうした?」
「はぁ。あんなもの直ぐに取ってゴミ箱に捨てた。ルディ。監禁は駄目だよ」
「あれでも駄目なのか」
あれでもこれでも駄目なモノは駄目だ。ルディは私を抱きかかえて、部屋に戻ってそのままルディはソファに腰を下ろす。
「どうすれば、大人しくしてくれるんだ?」
「無理じゃないかな?」
「はぁ」
ため息を吐かれてしまった。そもそも、私の行動を制限しようという時点で間違っているのだ。
「今日は、本当に心臓が止まるかと思った」
あ、うん。私もあのタイミングで転移されるとは思わなかった。
「アンジュが突然現れて、勢いよく壁に激突していった姿を見せられてた俺の気持ちわかるか?」
「ごめんなさい」
そこは素直に謝る。でも不可抗力だったよ。呪いの腕輪がなければ、そのようなことは起こらなかったからね。
ルディは私の黒い腕輪を触る。包帯でぐるぐる巻にされた下に隠されている腕輪に。
「これは、アンジュが無理やり攫われたときの保身用につけたものだったのに、それが今回アダになってしまった」
え?私が攫われる?私、攫われても多分自力で脱出できると思うよ。
「恐らく、これから本格的な魔物討伐が行われる。どのような方針でいくか結局決まらなかったが、アンジュに付いていられないことも多くあると思う」
本格的に魔物討伐。もしかしてこれは···。私はニヤリと笑う。
「ピンクの髪と目の聖女が見つかった?」
私の言葉にルディは息を飲み、私を凝視した。その姿に私の言葉が当たったと確信する。やはり、ここは乙女ゲームの世界のようだ。私はおかしくなって、くすくすと笑う。
聖女となるものが見つかったなら、私の愁いが一つ減った。誰が狂信者共の餌食になるものか。見つかった聖女の子には悪いけれどね。
「アンジュ。どこでそれを?」
私は笑いが止まらない。どこまでが実でどこまでが虚かわからないけれど、ここが乙女ゲームの世界だとすると、これからアチラコチラで常闇の異常発生が頻発することになる。世界が混沌となり、異界のモノたちがうごめき出すことだろう。
「くすくす。別に盗み聞きはしていないよ。強いて言うなら、夢のお告げかなぁ。これで、私が恐れていることが一つ減った。誰が天の日を掲げる者になどなるものか。誰が狂信者共のいいように使われてやるものか」
私の言葉にルディの目に仄暗い闇の火が灯った。
「そうだ。アンジュは俺だけの天使だ」
ん?私の言葉のどこにルディのヤミ要素に引っかかることがあったの?




