517 聖女への面会
「聖女カセツを紹介されました」
遅い昼食を用意された食堂に第十一部隊長さんが通されて、私の目の前に座って話をしてくれている。
それも聖女カセツと呼び捨てだ。
会う前は『様』をつけていたのにどういう心境なのだろう?
「といっても、こちらからは声をかけることは許されず、面会という形でしたね」
「面会ってことは、偉そうにふんぞり返っている聖女の前に連れて行かれたってこと?あっ!このスープ凄くスープっぽい!」
話も大事だけど、目の前に出されたスープにとろみがあって、俺スープだぜというのをアピールしてきている。
水みたいなスープじゃないのだ。
「いや、普通はこうだからな」
スープに感動している私にファルが突っ込んできた。
とろみがあるスープなんて、自分で作らない限り出てこないと思っていたから、凄く感動的だ。
「そうですね。白髪の女性が壇上にいて、私はそこに通されただけですね」
「ふーん。何かあった?」
「精神防御の魔術に干渉してきました」
心を覗き込もうとしたのか、操ろうとしたのかはわからないけど、目に見えない形で接触をしてきたということだね。
「それで?」
「プルエルト公爵から、これから聖女カセツ様に仕えるようにと言われただけですね」
「それだけ?」
「父からは明日ぐらいには指示が来るだろうと言われましたが、本当に聖女の顔見せだけでした」
私はもっとこう……聖騎士として側に仕えなさいと言われると思っていたのになぁ。
「ああ、そう言えば、その場所にセラベラト・イグレシアの姿がありましたね」
「誰か知らないけど?」
どうどうとお前知っているだろうという感じで名前を言われたけど、私には聞き覚えが全くなかった。セラなんちゃらかんちゃらって誰だよ。
「元第二部隊長だ」
隣りにいるルディが教えてくれた。
ああ、退団させられたとかいうイグレという人。
あれ?それって王様が粛清したって言っていなかった?
「それって王様が取り潰したって言っていなかった?」
「今までのやらかしてきたことを突きつけて、教皇の座から引きずり落としただけだから、イグレシアが聖女の近くにいても不思議なことじゃない」
ファルが説明してくれた。そうか、王様は血祭りにあげたわけじゃなくて、教会の地位から排除したということか。
「ただ、権力はないが人脈はある。厄介な者であることには変わりない」
ファルの言葉をさらに、ヴァルト様が補足してくれた。
確かに教会の偉い人なら、人の繋がりは多そうだ。
「それで印象はどうだった?聖女の感想を教えてよ」
蛍光灯が頭上にあるのか気になるじゃない。
「そうですね。200年前の聖女がそのまま絵から出てきたような姿でしたね」
「ごめん。私はそれを一度も見たことがないから、わからないよ」
「銀髪というより白髪で、歳は十六歳ぐらいにみえましたね。幼いと思える容姿は整っているのですが、私は気味が悪いと思いました」
「どういうこと?」
美人ということなんだよね。それがなぜ、気味が悪いということになるわけ?
「説明するにも説明しがたいのですが、わかりやすく言うと、リュミエール神父が朗らかに笑ってそこにいるという感じですか」
「いつもの笑みではなく?」
「ええ」
神父様はいつも笑みを浮かべているけど、それは感情が伴わない笑みだ。
それが感情がある笑みを浮かべてそこに神父様がいるというのだ。
想像しただけで、これは駄目なやつだと私の脳は判断してしまっている。
脱兎のごとく逃げ出さなければならない状況だと。
いわゆる危機感知だ。
「わかりにくい例えだな」
誰も反応を返さないなか、ヴァルト様だけが意味がわからないという反応を示した。
いや、酒吞も茨木も緑龍もこの場にいるものの、九尾の白狐が如何ほどのものか分かっているので反応しなかっただけなのだろう。
そして朧は私の背後に立っているので、わからないけど、王族の神父様のことはわかっているだろうから、特に言葉がなかっただけと思われる。
残りはキルクス出身者なのだ。ロゼとリザ姉は今食べた物を吐きそうなほど、青い顔色をしている。
きっと想像してしまったのだろう。
「ヴァルトルクス第十二部隊長にはわからないでしょうね」
説明してあげればいいのに、挑発的な言い方で返す第十一部隊長さん。
ヴァルト様にはわからないと思うよ。
「だいたい普通では、致死的訓練の説明のときにそういう感じで説明してくるんだよ。表情とまとう気配が正反対ってことかな?」
笑みが強まっている神父様には要注意だ。
ヤル気満々だからね。
そして第十一部隊長さんは、聖女カセツの表情とまとう気配がチグハグだと言っているのだ。
16歳の者がまとう気配ではないと。




