501 王城は異様な雰囲気の場所だった
あれから再び魔王様が降臨される事態になったけど、なんとか王都まで戻ってきた。
いつもなら、そのまま北にある聖騎士団本部にワイバーンを着陸させるのだけど、王都の中心にワイバーンを操縦していっている。
憂鬱だ。とてつもなく憂鬱。
王都の一望できる王城の一角に広い敷地があり、そこが騎獣で降り立つところらしい。
王族が到着するので多くの人に出迎えられるのかとビクビクしていた。だけど、そのようなことはなく、数人の者たちがワイバーンを誘導している姿が見えるのみ。
そうか、ルディは黒をまとっているから、あまり歓迎されていないところがあるのだろう。
そして神父様は王族ではあるものの、僻地に左遷されたようなものだ。
こう見るとやはり、王族の力は低迷していて、貴族の力が強くなっているということなのだろう。
そんな場所に今から行くと。
嫌すぎる。
「ここでの私の立場ってどうなるの?」
取り敢えずこれだ。ルディの婚約者という立場なのか。
聖騎士という立場なのか。
できれば聖騎士という立場でいたい。
「俺の婚約者として、色々覚えてもらうことがあるだろう」
「だよね〜」
私はガクッと項垂れる。
くっ。絶対に何がなんでも、ヴァルト様を盾にして、リザ姉とロゼに背後にいてもらわないと、私が耐えられない。
ワイバーンが地面に降り立ち、私はルディに抱えられて降ろされる。
いや、自分で降りるし、歩くよ。
だから、そのまま進もうとしないでよ。
何故か私は地面に下ろされずに、そのままルディに抱えられて進んでいる。
「下ろして欲しい」
要望は口に出しておく。
ただ、王都の上空を旋回しているときから、徐々にルディの雰囲気が悪くなってきている。
いや、機嫌が悪いというより、私を私だと認識していなかったときのルディの雰囲気だ。
他人を拒絶し、誰も近づかせない雰囲気を醸し出している。
それが王族の持つ威圧感というものかもしれないが、王様のような親しみやすさはなく、全てを拒絶している感じだ。
「王弟殿下。陛下は執務室でお待ちです。それから、ご同行の方々は控室でお願いいたします」
王弟殿下。聞き慣れない言葉を言う者に視線を向けた。
肌が浅黒く髪が黒い、赤い血の上に立つ者。
ルディに話しかけた者は人ではなく『黒狼』と呼ばれる者だった。
これは王様直属と解釈をしていいのか、この城で王族に仕える者が無能なのか。
いや、王様自身が未だに回復をしたと言わずに裏で動いていることを思えば、信用できる者たちが、誓約で縛った『黒狼』たちしかいないのかもしれない。
「了解した。だが、この者たちも共に陛下と謁見する」
「かしこまりました」
ルディの言葉を聞いた『黒狼』は、気配を消しながら下がっていき、そのまま姿がかき消えてしまった。
いや、これって怪しんでくれと言わんばかりの動きじゃない。
人は姿が消えるような動きはしないから。
せめて狐らしく、いそうな人に化けて声をかければいいのに。
「ルディ。あれ、バレバレじゃないの?」
私はルディの耳元でこそこそと聞いてみた。
こんなひと目があるところで堂々と黒狐が姿を現してもいいのかと。いや、そう言えば朧もその辺りを気にしていなかったような気がする。
「声をかけられるまで、気が付かなかっただろう?アレらはそういうものだ」
ルディの言葉にどういうことかと考える。
確かに声をかけられるまで、近づいてきたことに気が付かなかった。
そこに誰かがいると認識して、『黒狼』の者とわかる。
ああ、忍者ってことだね。
認識されなければいないことと同じだと。
それでやっぱりアレ呼ばわりなんだ。
彼らのこともそのうちどうにかしなければならないと思いながら、周りを見渡す。
いつの間にか王城の建物の中に入っていた。
外見からわかっていたことだけど、きらびやかな城というより、堅牢な城という感じだ。
この城は権力の象徴と言うよりも、戦うための城だ。
飾り気のない石の壁が続いていき、石の床に気休めに敷かれた絨毯の廊下が行く先を示している。
キルクスの教会を思い出させる寒々しさだ。これなら、まだ第十三部隊の詰め所のポツンと一軒家のほうがマシのような気がする。
しかし、人と一度もすれ違わない。いったいどういうこと?
そしてルディは、同じように並んである内の一つの扉をノックした。扉の前に護衛がいないように思える。
ここに王様が?
中から扉が開けられ、そこにいた人物を見る。
「……偽物の王様だけど?」
開けられた扉の先には、王様そっくりな偽物の王様がいたのだった。
周りに人ではない怨嗟の塊がいるから、ひと目でわかってしまう。
「アンジュ。わかっていてもここでは言うな……と口止めをするのを忘れていたな」
ルディ。口止めするのであれば、早めに言って欲しいね。
こうして私は魔窟である王城の中に入ってしまったのだった。




