499 ホラー現象が!
ルディの不安症候群のせいで、王城直行便が決定してしまい、憂鬱な朝を迎えてしまった。
昨日も共同の浴場があるので、リザ姉たちと行っていいかと聞いてみた。けれど案の定却下された。
そして、部屋に備え付けの狭いシャワールームに入っていれば、鍵をかけたドアがガシャガシャと鳴り出す怪奇現象が起きるしまつ。
扉が壊れる前に『喉が渇いたから飲み物が欲しい』と、やることを与えれば、怪奇現象は収まった。
これ本当にどうするのという状態だ。
そして昨日と同じく絶対に一人用だろうというベッドで目が覚めた。あまりにも窮屈過ぎてだ。
ルディが寝たら、こっそりと床で寝ようとしたものの、何故か無理だった。まるで金縛りにあったかのように身体が動かなかった。
一人でホラー映画の中にいるような一晩だった。
第十一部隊長さん。一人ホラー映画は怖いね。よく丸一日耐えたと思うよ。
しかし、そろそろ起きなければならないと思うのだけど。日の出の時間に出立と言っていた。
窓の外は暗い。だから、出立時間ではないが、朝日が昇ってからだと大遅刻なのだ。
正確な時間はわからないけど、廊下から誰から通る音が聞こえるから、そろそろ起きてもいい時間のはず。
というか、この金縛り現象をどうにかして欲しい。
おそらくというか、絶対にルディの聖痕の力のせいだと思う。
部屋の中には間接照明があるはずなのに、その光が薄ぼんやりとしかわからないほど暗い。
最近、だんだんと闇の聖痕の力を扱えるようになってきている。
出会った頃は忌避していたのか、扱い方がわからないという感じだった。
それを扱えるようになってきたのはいいことなのだけど、こういう使い方はやめて欲しいな。
そう、謎に動けないということは、声も出ないのだ。
普通なら狸寝入りしているルディに声をかけて起きるところなのだ。
呼吸が止められなくて良かったけど、これは絶対に文句を言わないといけない。
はっ!まさかこれは、私が以前見せた影を縫い留めて動きを止めた応用編とか言わないよね。
だんだんとイライラ感が増してきたところで、廊下から扉がノックされる音が聞こえてきた。
『シュレイン。起きているか、朝食の用意ができたと言われたぞ』
ファルの呼びかけに、金縛りが解けた!
私は重力の聖痕を使って、扉に張り付き、鍵を開けて廊下に飛び出した。
「ファル様。ルディの悪化度が酷い!金縛りだよ!酷いよね!」
床に転がるように飛び出したため、下からファルを見上げることになる。
あれ?ヴァルト様もいるし、これってルディと私待ちってことじゃない!
「酷いのはアンジュの格好だ!羞恥心を持てと言っているだろうが!」
「まさか、よだれが」
口元を拭うが、特によだれが出ていた痕跡はない。
「違う!さっさと部屋に戻って着替えてこい!」
「え?絶対にこれ魔王様化しているから、戻りたくないよ」
部屋の中から怪しい気配が漂ってきている。
ヤバイよ。
「アンジュ様。身なりを整えていただけると、助かります」
ヴァルト様の声が聞こえたかと思うと、頭の上からバサリと上着が降ってきた。
身なりって……キャミソールワンピースだから、特に問題ないよね。
ん?上から上着を被せられたということは……
「ああ、髪がぐしゃぐしゃってことだね。昔と比べたらマシなほうなのだけど」
それなら仕方がないと、床から立ち上がる。
「リザ姉に髪を整えてくれるようにお願いしたいから、部屋がどこか教えて欲しいです。ヴァルト様」
「くっ……」
髪をどうにかしろと言ったヴァルト様に、リザ姉の部屋を教えて貰おうとしたのに、横を向かれてしまった。
何故に!
すると突然視界が塞がれてしまった。
これは……毛布?
「なにこれ!」
「アンジュ。部屋に戻ろうか」
これは魔王様の声。そして身体が宙に浮き、運ばれている感覚が!
「金縛り地獄はいやだー!」
「意味がわからないことを叫んでいないで、さっさと着替えて食堂に来い」
というファルの言葉と同時に、扉が閉まる音が聞こえてきた。
そして毛布が剥ぎ取られたかと思うと、私を見下ろしてくる金色の目が……背景が歪んでいるし、魔王様が怒っている。
だけど、怒りたいのは私のほうなんだからね。
「言っておくけど、ルディが悪いのだからね。聖痕で私を動けなくしたよね。声も出せないって酷くない?」
「何故、ヴァルトルクスを頼る」
「別にヴァルト様には、リザ姉の部屋を教えて欲しいと言っただけで、頼ろうとしたのはリザ姉だけど?」
「何故、俺では駄目なのだ」
はぁ、駄目とかそういう話ではないのだけど。
それから、私の話を聞いていた?
怒っているのは私のほうなのだけど。
やはり、幼少期に母親の愛情を受けなかったというのが、今になって歪に出てきてしまっているのだろうか。
私への独占欲が酷い。
私とルディの間で完結できることなど、たかが知れている。
全てが完結するわけではない。
だけど、ホラー現象は解決できる話なのだ。
「ルディ。取り敢えず、私に謝ってもらえる?じゃないと、今度からルディに茨の鞭と銀の鎖で動けなくしてから、寝ることにするよ」
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【結婚するとは言っていません】
(あらすじ)
ある日父が突然とんでもないことをいい出したのです。
弟のアルバートの代わりに騎士団に入団して欲しいと
前世が、騎士だった私。
王都は前世で関わった人が多いので、なるべくことを穏便に済ませたいです。
そう穏便にです。
興味がありましたらよろしくお願いします。
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