497 これ、王様の代わりができるの?
「ちっ。誰もが聖女。聖女と、アンジュは俺のだと言っているだろう」
昨日泊まった部屋に、無言でルディに連れてこられた。そう、まだご飯を食べていないというのにだ。
まぁ、第十一部隊長さんが聖騎士とはと聞いてきたときぐらいから、魔王様化して一言も喋らなくなったので、こうなることは予想していた。
そう、途中からいつものように全く話さなくなったのだ。
「私は私のだよ」
取り敢えず言っておく。それよりもお腹が空いた。
「ルディ。私は食堂でご飯が食べたい。それからディリラ姉が用意してくれた果物が欲しい」
どう見ても、一人用の部屋のシングルベッドの上で私は捕獲されているのだ。
食堂に行こうにも行けないのだ。なんという理不尽。
「わかった。食事をもらってくる。絶対に部屋から出るな」
「は?ちょっと待って、ここの部屋って食べるスペースって……」
私が言い切る前にルディは、私に部屋から出ないように言って出ていってしまった。部屋に鍵をかけてだ。
駄目だ。これ二百年前の聖女と同じで、王城に幽閉……あ、違った軟禁されそうだ。
はぁ、何故にこんなに不安定なのだろうか。
私はため息をつきながら、窓の側に行き鍵を開けたところで、背後の扉の鍵がカチャリと開く音が聞こえた。
……早いよ。
「アンジュ。何処に行こうとしている」
「……窓を開けただけだよ。湿気が酷いからね」
数日ごとに嵐になっていたのだ。人が住まない部屋は湿気がこもっている。
冷気が入ってくるが、空気の入れ替えは必要だよね。
「淀んだ空気のなかで食べるよりいいはず」
振り返りながら言うと、部屋の入り口にルディとファルが立っていた。恐らくこの状況からルディが部屋食を望むだろうと、ファルが事前に用意していたのかもしれない。
「この部屋。狭すぎて食べるところなんてないけど?」
一応机はあるものの、執務机だ。何か作業をするための机で、食事をとるようなテーブルではない。
「別の部屋に用意している。先程陛下と団長と連絡を取ったから、その内容報告を兼ねてだ」
ファルが部屋の外に出るように指を指し示めした。
ルディを窺い見ると不満そうだが、食事と報告を兼ねてだというと仕方がないという雰囲気を醸している。
これ、本当に白銀の王様の代わりになるのかなぁ。私の存在に左右されすぎなんだけど。
何度か使ったことがある食堂ではなく、会議室のような部屋に通された。
恐らく内密な話があるのだろう。
「シュレイン。この部屋なら問題ないだろう」
違った。ルディが食堂で夕食をとることを拒否したらしい。
そして私は美味しいものが食べられると期待して、席についた。
何故か誕生日席のようなところを勧められたのだ。
これは一種のいじめだろうか。たぶん位置的にはエラい人が座るところ。
何故なら私の背後には、第一部隊の旗と国旗が掲げられている。
王族の神父様とルディがいるのに、何故に私がここに座らなければならないのだ。
「席の移動を希望したい」
「アンジュはここだ。シュレインが色々面倒だからここだ」
ファルが言うにはこの希望もルディらしい。
何故に私が一番偉そうなところに座らないといけないのだろう。
せめて第一部隊長さんでも……と視線を巡らせれば、第一部隊長さんと第十一部隊長さんの姿がなかった。
それ以外のヴァルト様やリザ姉、ロゼ。そして酒吞に茨木に緑龍までいるのに……。もちろん神父様も既に席についていた。
「やっぱり、自分専用の鎧のほうがいいですよね」
「そうよね。王都に戻ったら作らないといけないわよね」
この状況を別に疑問を抱かないのか、鎧を脱いだロゼとリザ姉が借り物の鎧に不満を漏らしていた。
あれ?鎧ってオーダーメイドなの?
私の鎧って、これがいいって言っていないのに、既に用意されていたのだけど。ルディから。
「第十一部隊長さんは?」
斜め前に座っている神父様に尋ねる。ルディは私を抱えてすぐに部屋に引っ込んだから、何かを知っているとすれば神父様だ。
「王都に帰還するように命じました。早朝には王都に着くでしょう」
悪魔神父は、休息を取らずに王都に帰るように言ったらしい。どれだけ、初恋の君を馬鹿にしたのが許せないのか。
「あまり時間をかけられませんからね。我々と第十一部隊以外は、ほぼ王都に到着しているようですからね」
ルディが確か言っていたね。解決したのが一番最後だったと。
いや、これでも早い方なのだけどね。
あの嵐に足止めされていなければ、一日とは言わないけど半日は確実に早かったと思う。
「第十一部隊にも先程王都への帰還命令がでましたから、翌昼には到着しているでしょう」
第十一部隊は国の最北端に駐屯地があるから、どうしても王都に戻るには時間がかかってしまう。
神父様の説明を聞いていると、夕食が運ばれてきた。
それを見て私の思考が止まってしまう。
「何故に、硬いパンと薄いスープと異様に大きい肉なの!」
とてもとても、教会の食事風景が蘇ってくるメニューだった。肉は硬い干し肉だったけれどね。




