487 毛皮のコートが暑い
私はすべての茨を排除した。
すると酒吞の炎を止めていた壁がなくなる。
今度の檻は酒吞の炎だ。そして『けいもう』の行動を狭める為に作られたファルの樹木の壁。
私と茨木は酒吞が出した炎に追いかけられながら戦闘区域を目指す。
「毛皮のコートが暑い」
真冬だからと着せられた黒い毛皮のコートの中で私は蒸し焼きになっている。
これ、その辺りに捨てていきたい。だけど、ものすごく高そうだから、捨てるなら換金したい。
だから意地でも着ていなければならない。しかし、限度というものがある。
「誰が、炎を背に毛皮のコートを着ている人がいるの!」
「野盗の頭目などは、勲章のようにまとっていましたね」
茨木が言う頭目は、素っ裸の上に毛皮をまとっているのではないのか。何の毛皮か知らないけど。
私は夏も冬も関係ない隊服を着ている。素肌を見せない作りの隊服をだ。
その上から毛皮のコートを一人まとっている。
こうなってくると、色々魔術を施された鎧のほうが良かったと思えてきた。
絶対に耐熱の効果も付与されているよね。
「ちょっと待って、これは流石に私がまいる」
私は足を止めた。
流石にコートを脱ぐわけにはいかないので、私の周りだけを冷やす。
結界を張りたいけど、いざという時は私も攻撃に加わる必要があるから、それはできない。
「アンジュ様。地面が凍っていますよ」
「わかっているよ」
「思ったのですが、アンジュ様なら滝のような雨を凍らすことができるのではないのですか?」
「私は別のことに集中したいから、茨木に頼んだのだよ」
細かい氷結を私の周りに出現させて温度を下げる。そして、改めてファルが作った樹木の壁に手を置いた。
「破壊」
木片が飛び散り、密集した木々の一部が飛び散った。そしてその隙間から吹き付けてくる風。
え?台風?
木の破片が向かってくるけど、私の周りにある細かい氷結に当たって凍りついていく。
壁のようになってしまった木片により前方が見えずに、何が起こっているのか理解できない。
「普通に結界を張っておけばよかった」
色々考えずに、普通に反転の盾を使っていれば、こんな怪しい状況にはなっていなかったはずだ。
取り敢えず、反転の盾を前方に展開して穴を塞ぐ。
「これは中は嵐のようですね」
私の前にこびりついた木の破片を取り除いてくれる茨木。
「さっきまでただの雨だったじゃない!」
滝のようなとはつくけれど、雨だから茨木に相手の術を奪えるかと聞いたのだ。
それが何故に、いつのまに嵐になっているわけ?
山の外に出ていないから、嵐にならない仮説は崩壊したということだ。もしくは、己の山ではないことがバレたのか。
「先程、灰燼の武士がアンジュ様にお伺いにきましたよね」
「そうだね」
「あの者の危険性を感知したのではと、私は愚考します」
……ヴァルト様が参戦した所為?
夜叉が感じた危険度を『けいもう』も感じたということ?
ある意味、ヴァルト様は最凶だよね?
しかし、これは私の判断が間違っていたということかな?
いや、防戦一方だった『けいもう』に動揺をもたらしたのだ。グッジョブということにしておこう。
「私の作戦は変わらないよ。槍を作ってよね」
「かしこまりました。それから透明な盾に当たった雨と風から火花が散っているのですが……」
私の出した反転の盾は属性を別のものに変えるというものだ。それは異界の神の力でも変わらない。
うん。火花が散ってファルの木に燃え移ってしまったね。
「ははは。異界の神の力の火だから、火力が凄まじいね」
笑うしかないぐらいに一気に燃え広がった。
「でもこれなら『けいもう』も気が付くよね」
周りが火に囲まれていると。
私は一つ息を吐き、思いっきり足で大地を蹴り上げた。そして重力の聖痕で一気に『けいもう』との距離を詰めていく。
嵐だろうが、関係ない。
ルディや神父様の気配がある方に引き寄せられればいいだけだ。
反転の盾に叩きつける雨と風。
辺りに火花が散り、しけった木々を燃やしていく。
そして広い空間に出た。
私の目は緑色の鱗に覆われたドラゴニュートを捉える。あ、『けいもう』だ。
着物に似ているが、袴というよりダボッとしたスボンを履いているドラゴニュートに向かって手を掲げる。
周りに火の手が上がって動揺を見せているドラゴニュートにだ。
「空に向かって飛べ!」
重力の聖痕でドラゴニュートを空高くに打ち上げる。
抵抗感が無かったので、上手く動揺を誘えたようだ。
「茨木。下から上に向かって巨大な槍を!周りの雨を使ってよ」
『けいもう』が、作り出した雨の水分を凍らせて作るように言った。
そして下から突き上げるように形作られる氷の槍。
「そのまま地面に向かって重力倍増」
抵抗しようが、相手は地面に向かう重力だ。神が重力を操れないかぎり、地面に叩きつけられるのみ。
「アンジュ様。完了です」
先の尖った槍は『けいもう』に届く寸前で形成が完了し、腹を貫き背に貫通した。
絶叫が『けいもう』のワニのようの口から漏れる。
地面に叩きつけられ、土にめり込むほどの衝撃。
「あれ?動いていないけどやり過ぎちゃった?」
ピクリとも動いていないドラゴニュートの背からは、氷の柱が生えていたのだった。




