485 土地神なのか。それとも…
私は茨の山の中を駆け回る。
どこかに常闇の兆候がないのかと。
絶対にあるはずだ。あの『けいもう』が出てきた穴がだ。
あった!
岩と岩の間にできた隙間から、黒いモヤが出てきている。それはまるで、この先が神話に出てくる黄泉の国に続いているような雰囲気だ。
でも、ここから今戦っている場所は遠すぎる。
こちらに誘導してくる必要があった。でないと山全体に常闇を広げないといけなくなる。
戦っている方を改めてみると……滝のような雨が降っていた!集中豪雨!
それが町のほうに激流のようになって流れていっている。
だけど、ファルが作った木の壁に阻まれて直撃は免れていた。
ファル。何気に役に立っているよ。
でも、これは早く止めないと、本当に水の下に町が沈んでしまってもおかしくない。
天神の力はかなりの広範囲を水の下に沈めたのだから。
でも上空に雲があるわけじゃないので、『けいもう』をボコるしかない。
ボコるしかないのだけど、今全員でボコっているはずなのに……。
私はちらりと黄泉の国に続く黒い穴をみる。
何も反応していない。
ということは、こちらの分が悪いということだ。
常闇の位置は確認できた。
私は重力の聖痕で、空を飛んで集中豪雨になっているところを目指す。
上空から見て理解した。
顔が龍って本当だった!ドラゴニュートは実在した。
そして水の硬い防御壁が空中で位置を変えながら、皆の攻撃を防いでいる。
ああ、これで致命的な攻撃が入らないのか。
あれ?離れたところに酒吞と茨木がいる。
どうしたのだろう?
上空から近づいて行った。
「ねぇ。なにか問題でもあった?」
「あ?アマテラスじゃねぇか。封印が効いていねぇぞ」
いや、私は周期的に雨が降るということだから、神の力を抑える何かがあるのだろうとふんだだけで、封印したわけじゃないよ。
「ここまで雨に降られると酒吞は役立たずですからね」
「うっせぇ」
そうだよね。局所の集中豪雨だものね。しかし、先程まで何も無かったのに突然どうしてこうなったのだろう?
「こうなったきっかけってあった?雨が滝のように降るきっかけだよ」
「それは多分、酒吞殿が山を燃やそうとしたからですね」
緑龍が教えてくれた。彼はここで何をしているのかと思ったら、風で次々と生えてくる茨を切っているのだ。
そう、既にロゼの魔鼠とリザ姉の蜂の姿はない。恐らく戦闘に巻き込まれたのだろう。
「あ?鬱陶しいじゃねぇか。腕や足にツタが絡まってくるんだぞ?」
「え?おかしいなぁ。『けいもう』限定のはずなのに?」
ん?いや、呪文に『けいもう』と名指ししたわけじゃない。力の根源と言った。
ということは、私の茨が皆の行動を防いでいる可能性があるってこと?
「ごめん。やっぱり解除するよ」
『けいもう』の行動を阻害しているけど、皆の戦いの邪魔をしているのも、私の茨の可能性が出てきた。
「あ、その前に、酒吞。戦ってみた感想はどう?」
戦闘狂の酒吞が、こうも簡単に引いたのが気になる。いや、確かに滝のような雨の前に引いたのだろうとおもうけど。
「めっちゃ怒っていたな」
怒っていた?流石に茨の檻に囲まれて出られないことに腹を立てたということだろう。
「あれは、縄張りを荒らされたヤツと似ている。地に執着するヤツだな」
「そういうモノは厄介なのですよ。地に依存するモノは、その地では無敵だったりしますから」
あー。やっぱり斥候は必要だったらしい。それではここで戦っていると、こちらに勝機はないということになってしまう。
「え?でもさぁ、今、嵐になっていないということは、この場所にいるからとも言えるよね?でもこの場所だと無敵……この戦い、はじめから詰んでない?」
空は冬の青空が広がっており、昨日まで叩きつけていた風も雨もない。
ということは、私の行動は嵐を抑えることに関しては正しかったといえる。
だけど、酒吞や茨木の意見を聞く限り、土地神の要素を持っているらしい。
土地神と言われても今思い浮かばないな。
その地で暴れた神を鎮めるために祀った『荒神』とか?
「そういうのは、触らぬ神に祟りなしというのですよ」
茨木の言葉にガクリと肩を落とす。
それはわかっているけど、この世界に居座られて被害を拡大されても困るから、常闇にお帰り願うしかないのだ。
「土地に執着かぁ。『けいもう』は山神っていうことなんだね」
「違います。嵐の神です」
「……緑龍。それ土地神なの?」
嵐の神ってそのままじゃない。だったら土地神でもなんでもないってことだよね。
「翠玉が、取れる山に住んでいると聞いたことがあります」
「そっちへの執着!」
これはもしかして、光り物が好きだからその場所を守っているとか言わないよね。
「はぁ、取り敢えず解除するよ」
『けいもう』の執着が、物だったことにがっかりしながら、私は茨の聖痕を解除したのだった。




